豊島逸夫氏に聞く「世界経済の動きから読み解く金・プラチナ価格」

2015年は、金とプラチナの価格が下落した1年でした。2016年は米国の利上げに伴う為替変動と相まって、一転、上昇傾向が予想されています。今回は、2016年から中長期的に金とプラチナの価格の動きについて考えてみましょう。

米国利上げ、為替変動と金価格への影響とは

2015年は、米国の利上げ前に金とプラチナの価格がどこまで下がるかを試す年でした。おおよそ金は1000ドル台、プラチナは800ドル台で底打ちの感覚が醸成されつつあります。対して2016年は、米国の利上げ後、どこまで上がるかを試す年となるでしょう。結論から言うと、1300~1400ドル程度が年間レンジの上限と見ています。利上げ後、市場の関心は2016年に何回利上げがあるかに向いていきますが、2〜4回までその意見は割れています。1回の利上げ幅は0.25%なので、つまり年間で0.5〜1.0%ということです。イエレン議長自身も、利上げペースは極めて緩やかと強調しているので、マーケットが大揺れになるほどの急激な利上げはまず考えられません。

金価格推移[2011年1月~2015年11月]

そうなると、金利を生まない金でも、この程度なら「利上げ、恐るるに足らず」という安堵感が広がるでしょう。外国為替市場でも2015年のようなドル高一辺倒ではなく、ドル高、ドル安が交錯する展開となり、通年ではドル高(=円安)というトレンドになりそうです。2015年はとにかくドル高で金が売られましたが、2016年はドル安で金が買われる場面も珍しくなくなるでしょう。

短期的相場動向に大きな影響を与えるNY金先物市場でも、2015年は投機家が空売り攻勢を繰り返し仕掛けました。しかし2016年は、売り買いの両サイドから攻める手口となるでしょう。ドル相場に影響を与える要因としては、ユーロにも要注意です。既に開始した量的緩和をドラギECB総裁が2016年中に大胆に積み増すと、ユーロ安=ドル高となるので、金は売られやすくなります。ただ、日銀と同様に追加緩和といっても方法が限られており、市場を驚かせるほどの規模は考えにくいと思います。

金市場の注目は新興国

一方、金市場における中国やインドなど新興国の存在はますます重要になります。米国の利上げとともに、新興国からのマネー流出が顕在化し危機感が漂っているのに加え、経済成長も減速傾向が顕著です。しかし、中国・インドの金需要は、2014年10月〜2015年9月の本稿執筆時最新需給統計を見ても、世界の年間金生産量の55%を買い占めています。やはり文化的に金選好度が高いので、短期的経済変動の影響を受けにくいのです。ひらたく言えば、2000年間も金大好き人間だった国が、今後の10年、20年で金が嫌いになるシナリオなど考えられません。社会・文化的要因に根差す需要は根強いのです。加えて、2015年からは中国人民銀行が、外貨準備の一部として購入する金の量を公表するようになりました。その金額は、減ったとはいえ3兆5千億ドル近くに上ります。世界でもダントツ1位の外貨準備の7割近くがドル、2割程度がユーロという通貨偏在は変わりません。そこで、ドル・ユーロの一部を無国籍通貨「金」にかえて保有する動きは加速するでしょう。特に、人民元の国際化が進行中ゆえ、人民元への信認を支える一つの選択肢として金準備増強は必要なのです。

2020年までの長期展望、金価格は7000円台か

一方、生産面を見ると、年間3000トンを超えたところで明らかにピークを迎えました。これから増える見込みはありません。なぜなら、新たな鉱山開発計画が上がってこないのですから。その背景にあるのは、生産コストがアップし採算に乗らないこと。この一言に尽きます。特に、埋蔵量が多い海底金鉱脈は採掘に天文学的コストがかかるため、供給サイドにおける頼みの綱は、二次的供給源といわれるリサイクル。これも、高値の時にはドッと出ますが、安値圏では鎮静化してしまいます。

従って、東京オリンピックが開催される2020年まで見据えた長期で見れば、円建ての金価格は7000円を超えると予想しています。この見通しを語り始めてから2年近くになりますが、ますます自信を深めているところです。前提となるドル建て金価格は、史上最高値の1900ドルには及ばない1700ドル台。ドル円相場は、円安論者の私にしては控えめの120円台を想定しています。為替だけの見通しを聞かれれば、私は長期140円説を強く唱えているのですが。

株の世界ならば、4000円の株が7000円に上がることなど、1年でいくらでも起こりえます。それが、金価格が4000円台から7000円台と言うと、多くの人がビックリするのはなぜなのでしょうか。それも年後の予測なのに。証券会社のセミナーでも、金価格が4000円から7000円と言って驚く人は多くありません。それがなぜか、ゴールドセミナーになると、「えーっ!」という反応になります。金だけを見ていても、井の中の蛙になるだけ。マクロの市場環境の中で、金がどこまで上がるかを考えるべきなのです。

プラチナの価格回復を期待

次にプラチナですが、これは私の最近のおすすめですが、厳しい下落傾向に陥っています。正直なところ、ここまで下がるとは思いませんでした。フォルクスワーゲン不正問題が、明らかに投機的プラチナ売りを誘発しているのです。その結果、金よりプラチナの方がはるかに安くなりました。この逆ザヤは、2016年中に解消されるでしょう。希少性において、プラチナは金を絶対的に上回ります。クレジットカードなどのステータスで、プラチナカードがゴールドカードの下になるような事態は、私の想像力ではありえません。

なお、プラチナの市場規模は金の20分の1程度なので、希少性が高いかわりに値動きも荒くなります。

プラチナ価格推移[2011年1月~2015年11月]

そのため、長期投資とはいえ、それなりのリスク耐性が求められ、下がるとパニックになりやすい人には向いていません。プラチナの上げ要因は分かりやすく、世界の生産量の7割が南アフリカに集中しているため、南アフリカのプラチナ鉱山でストライキが起これば、たちまち生産に支障が生じます。それをはやし、NY先物市場では投機マネーがプラチナ価格を釣り上げます。南アフリカでは社会情勢不安、そして慢性的電力不足が全く改善されていません。このような不安定な国がプラチナを多く生産しているため、安定供給が難しいのです。

豊島 逸夫 氏

豊島逸夫事務所代表

2011年9月までワールド ゴールド カウンシル日本代表を務めた。スイス銀行等における外国為替貴金属ディーラーとしての豊富な体験をもとに、金市場、そして国際経済についてのわかりやすい解説で知られている。

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