「お金のおしゃべり」
Text by

松浦 弥太郎

Yataro Matsuura

なさま、こんにちは。

お元気でしょうか。月日があっという間に過ぎゆきて、暮れの景色がぼんやりと見えてきましたね。なにより、今年の夏は暑かったですね。

さて、真面目なお話ばかりでは疲れてしまいます。今回は、少し気楽にお金についてあれこれお話してみましょう。

私もお金について学んでいるのはみなさんと一緒。分からないことを教えていただくお金の師匠がいますが、普段、何気ないその方々とのおしゃべりが、とてもためになるのです。こんな時はこうするとか、こんなことに注意しようとか、これが原理原則である、というような会話からの学びとでもいいましょうか。

その中からいくつか、ちょっとお話してみましょう。どうか気楽な気持ちでお聞きいただければ幸いです。

ある方がこんな話をしてくれました。

「一生懸命に仕事をして、貯金をしたり、投資をしたりして、それなりの大金が手に入ったとしよう。その時にその大金を、自分の欲しいものに使うのか。それとも、この大金をどう生かすかと考えるかで、その後の自分とお金との関係は変わるんです。欲求のために使うとお金は必ず減ります。生かすために使えば、一旦は使った分は減っても、必ず何らかのかたちで増えるものなんです。これがお金を減らさないコツ。もちろん、リスクはある。けれども起きたリスクは目に見えない学びとなって、未来の自分に役立つんだよ。」

たくさんのお金を手にしたら、そのお金を生かす使い方を考える。とはいえ、どうしても、欲しいものを買いたくなるのは人の性。そんな時はどうしたら良いのでしょう。すると、こんなふうに教えてくれました。「難しいけれども、欲しいものって手に入れると、いつか飽きてしまうことが多いんです。だから、一瞬の満足のためにお金を使うのは我慢する。そのかわり、本当に必要なものは何かと探して買うんです。そうすると、気が済んで、欲しいものを買いたい気持ちは無くなりますね。」 なるほど、欲しいものよりも必要なものを買う。これは普段の買い物にも役に立つ心がけですね。

その方に僕はこんな質問をしてみました。「お金持ちになって一番良かったと思うことはなんですか?」と。すると、こんなふうに話してくれました。

「そうですね。お金持ちになるということは、選択肢が増えるってことが一番良かったことです。車を買うにしても、200万円しか持ってなければ、選択肢は限られます。けれども、2000万円あれば、選択肢が増えて、たいていの車を買うことができます。先程、私は選択肢が増えるのが一番良かったことといいましたが、良いことであると同時に辛いことでもあるのです。選ぶものが限られていれば悩みは少ないんです。これかあれかですから。選択肢が多いということは、それだけ悩まなければならないのです。さっきお話したように、欲しいものではなく、必要なものを選ぶという難しさがあるんです。選択肢が増えた中で、本当に必要であり、お金を生かした買い物をするには、学ばなければならないことがたくさんあるのです。その学びを楽しいと思うか、面倒くさいと思うかで、それから先のお金との関係は変わるんですよ。」

僕はなんだか深いお話を聞いてしまったように思いました。その方はさらにこういいました。お金を持つということは、少なからず学ばなければならないことがたくさん増える。なぜなら悩みが増えるから。なぜ悩みが増えるのか。それは使いみちの選択肢が増えるからなんです、と。

僕は子どもの頃、親からもらうお小遣いが増えた時、何に使おうかと悩んだことを思い出しました。子どもですから、当然、賢い使い方なんてできませんでしたが、悩んだ気持ちはよく分かります。

「お金の一番すてきな使いみちって、未来に対して使うこと。私はいつもそう思っています。」

その方から聞いたお話はまだ続きます。

それではまた。

PROFILE

松浦 弥太郎/Yataro Matsuura
2006年から「暮しの手帖」編集長を9年間務め、2015年4月、クックパッド(株)に入社。同年7月に新メディア「くらしのきほん」を立ち上げ、編集長を務める。現在は(株)おいしい健康・共同CEOに就任。
「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」を信条とし、暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学びについての執筆や活動を続ける。著書多数。雑誌連載、ラジオ出演、講演会を行う。
中目黒のセレクトブックストア「COW BOOKS」代表でもある。