金の価値が変動する7つの理由

金価格はどうして変動する?

金価格変動図

1. ドルと金価格の関係

世界の基軸通貨はドルであり、また世界経済活動の大きな部分はドルそのものとドル資産に依存しています。一般的にドル安になればその資産価値は減り、投機マネーはヘッジ先として他の通貨や資産を探すことになります。そのひとつのヘッジ先として従来金がありますが、1985年プラザ合意によりドル高是正承認後の3年間、連続的にドルは下落し、一方金価格は逆に上昇を続けました(チャート③)。それ以後、金価格の変動を説明する一般的解釈に「ドルと金価格の逆相関性」が多用されるようになりました。実際は必ずしもそうとばかりは限らず、最近ではヘッジファンドの大規模な参入等で、損失補てんのための一時的な換金売りの下げ(チャート⑦)なども見られますが、短期的な相場局面では当てはまる場合も結構みられます。

2. 米国経済の影響

米国経済の動向如何はドルの価値に影響を与えます。短期的な値動きの材料になるものとしては、定期的に発表される各種景気動向指数があります。金利動向、消費者物価指数、鉱工業業況、失業率、住宅着工数など。この中で、米国経済の好調を示す数値が出ると金が売られドルが買われる、逆の数値ではドルが売られ金が買われる、というのが前項でも触れた教科書的な動きです(もちろん必ずしもこのとおりになるとは限りませんが)。これとは別に中長期の問題として認識されているのが2002年ブッシュ大統領就任以後取沙汰されている「米国の双子の赤字」(いわゆる経常収支と財政収支の大きな且つ常態的赤字)。1990年代のレーガン、クリントン大統領時代の強いアメリカを現出する経済政策により持ち直した経常収支、またクリントン時代はプラスであった財政収支は足許赤字が拡大を続けています。行き着く先は更なるドル安であることは容易に予想され、この不安がドル資産から他資産への分散の流れを生んでいます。その中でドルとの逆相関性や、その歴史から国籍のない通貨とも言われる金が注目されています。この意味で米国経済の将来の不安を象徴するかのような2001年9.11米国同時多発テロが、金価格上昇へ反転のきっかけのひとつとも言われています(チャート⑤)。また、2007年8月に表面化したサブプライムローン問題、その後の大手金融機関をめぐる信用不安も米国経済の後退につながるものと捉えられ、以後ドル安と金価格高騰に拍車がかかりました(チャート⑥)

3. 原油価格とインフレの懸念

1970年代の相次ぐオイルショックやOPECによる一方的な原油価格の上昇がもたらした世界的なインフレは未だ人々の脳裏から容易に去りません。第二次オイルショックの只中1980年1月につけた1オンス850ドルは2008年1月に書き換えられるまで27年間最高値の座を維持しました(チャート①)。この時期の原油価格の上昇とインフレ発生、それに伴う金価格の上昇は、後に「金はインフレヘッジとなる」との定説を生み、同時に「原油価格と金価格は比例する」との見方も生まれました。もちろん必ずしも当てはまるわけではなく、最近は原油価格の経済への影響力は当時と比べ相対的に低下しているはずです。しかし、2005年のアメリカ南部を襲ったハリケーンによる精油所の被害で金価格が上昇したり、2007年後半以後の異常とも言える原油価格の上昇カーブに金価格のそれが重なっていたりすることは、投機心理的にはこの見方は根強いことを語ります(チャート⑥)。しかし、2008年後半以後の原油価格急落後も金価格は高値で推移しており、これは世界経済混乱への各国の財政出動による新たなインフレ懸念が発生したためともいわれています。

4. オイルマネー、インド・中国の経済成長

最近顕著に見られる原油価格上昇の裏返しがオイルマネーの増大です。従来、円、土地等さまざまな投資先を探してきたが、米国経済の先行き不安でドル資産からの分散の結果、金に一部がシフトしていると言われます。近年高まる米国対イスラムの対立関係もこれに拍車をかけているようです。一方、BRICsの中でも好調な経済成長を続けるインド、中国は順調に外貨準備高を増やし、やはり同じ理由から他の資産に分散する中、もともと金選好の強い国民性であることから、特に金準備に力を入れていると言われています。今後も両国の経済成長が続けば、特に中国はこれから一般市民にも私的保有がみとめられようとしており大きな購入勢力となると見られます。よってこれら諸国の経済状況動向が金価格の変動の大きな要因となります。特に中国は2009年5月、自国の準備金がそれまでの600トンから一気に1054トンに増加したことを認めました。世界最大の外貨保有国となった中国の影響は更に拡大するでしょう。

5. 年金ファンドの参入

2003年、オーストラリアに金ETFが世界で初めて上場され、その後、ロンドン、ヨハネスブルグ、ニューヨーク、シンガポールに相次いで上場されました。そして、2009年5月の段階で残高はすでに1300トンへ。この買い手の主役は欧米の年金基金といわれます。もともと、金ETFを開発したWGC(ワールドゴールドカウンシル)のCEOバートン氏の前職は全米最大といわれる「カルパース」(カリフォルニア州職員年金基金)の理事長でした。年金基金にとって一番怖いのはインフレと同時株安などの危機的状況。それに対抗するため、どのペーパー資産とも相関関係の薄いといわれる金をそのポートフォリオの一環に組み込むことは重要でした。2007年に大証で金価格連動型ETFが、翌2008年に東証にも金ETFが相次いで上場されました。更に年金基金が金へシフトすることも予想されます。年金基金は短期的に利ざやを上げることが目的のヘッジファンド等とは違い、長期的視野で運用する、つまり「バイ アンド ホールド」で、新規に購入された金はほとんど退蔵されるため、目下価格の下支えの大きな役割を果たしていると言われます。

6. 地政学的リスク

もともと、東西冷戦時代の1979年、ソ連のアフガン侵攻、イラン革命、在イラン米国大使館占拠、などで金価格は大きく上がりました(チャート①)。「有事の金」という言葉がうまれたのもこのころ。その後1982年のメキシコ債務危機や同年のフォークランド紛争(チャート②)など国際緊張の高まりが金をはじめとする金属価格や原油などの資源価格の上昇につながりました。しかし、1989年ベルリンの壁崩壊で東西冷戦が幕を閉じ国際緊張が緩和する中、1991年の湾岸戦争では圧倒的な米国の軍事力による瞬時の決着に金価格は反応せず、この頃から「有事の金」から「有事のドル」へと流れが変わりました(チャート④)。強いドルへの世界的信頼が成立した時代です。しかし、2001年9月、米国同時多発テロによる証券市場の一時的機能停止に対し、金市場が影響を受けなかったことに象徴される「有事の金」の復活、以降の中東、パレスチナ、東アジアでの国際緊張に対する心理的ヘッジ先として金が選択の一つとなっています(チャート⑤)

7. 需給バランス

需給の動向は、価格決定の基礎(ファンダメンタルズ)となります。これまで世界最大の産金国であった南アフリカでは、採掘条件の悪化や鉱山ストなどが要因となって 、同国の供給は減ってきています。一方、資源を重要な国家戦略の中に位置づけている中国は、ついに2007年、南アフリカを抜いて世界最大の産金国となりました。この中国をはじめ一部の国には生産量が増加しているところもありますが、世界全体で見て新産金は総じて横ばい、ないしは減少傾向にあります。これを補うのがスクラップ回収からのリサイクル金ですが、今後増加することが予想されるものの、総供給量を拡大基調とするには量的に届きません。一方、需要面の最大項目は宝飾品用途ですが、金価格急騰と世界的な景気減速を受けて伸び悩みの状態です。ただし中国・インドの経済成長がもたらす旺盛な需要は、年金基金需要とともに年々拡大して今や大きな比重を占めています。しかも、何れの需要も価格の影響は受けつつも、短期的な利ざや稼ぎが目的でないためかなりの部分が退蔵され、価格を下げる要因となる売却としてさほど市場に出ないこと、特に年金基金需要は、将来のインフレに備えて長期保有するのが基本的な姿勢ということが重要な点です。

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