金の価値が変動する7つの理由

金価格はどうして変動する?

金価格変動図

1. ドルと金価格の関係

世界の基軸通貨はドルであり、また世界経済活動の大きな部分はドルそのものとドル資産に依存しています。一般的にドル安になればその資産価値は減り、投機マネーはヘッジ先として他の通貨や資産を探すことになります。そのひとつのヘッジ先として従来金がありますが、1985年のプラザ合意によりドル高是正承認後の3年間、連続的にドルが下落する一方逆に金価格は上昇を続けました(チャート③)。それ以降、金価格の変動を説明する一般的解釈に「ドルと金価格の逆相関性」が多用されるようになりました。 実際には必ず逆相関性が見られるとは限らず、2008年秋の世界的な金融危機発生下のドル下落時においてはヘッジファンドの大規模な参入等で、損失補填のための一時的な換金売りによる金価格の下落(チャート⑦)なども見られました。最近の「ドルと金価格の逆相関性」についての代表例は短期的な局面ではありましたがFRBの度重なる追加利上げ(2016年12月、2017年3月、2017年6月、<チャート⑫以降>)によりドル高となるたび金価格に一時的な下落が見られました。今後は金市場において短期的な収益を求めることよりもポートフォリオ等、金の投資における役割を重要視する長期投資家も増加しているため、単純な逆相関性の図式にはならないことも予想されます。

2. 米国経済の影響

米国経済の動向はドルの価値に影響を与えます。短期的な値動きの材料になるものとしては、定期的に発表される各種景気動向指数があります。金利動向、消費者物価指数、鉱工業業況、失業率、住宅着工数など。この中で米国経済の好調を示す数値が出ると金が売られドルが買われる、逆の数値ではドルが売られ金が買われる、というのが前項でも触れた教科書的な動きです(もちろん必ずしもこのとおりになるとは限りません)。そのドルとの逆相関性や歴史から国籍のない通貨とも言われる金が注目されていますが、米国経済の将来の不安を象徴するかのような2001年9月の米国同時多発テロが、金価格上昇へ反転のきっかけのひとつとも言われています(チャート⑤)。 また、2007年8月に表面化したサブプライムローン問題、2008年9月の大手金融機関をめぐる信用不安、2011年8月のS&Pが米国債を格下げしたことも米国経済の後退につながるものと捉えられ行き場を失った投資マネーが安全資産である金にシフトし、2011年9月にドル建て金価格は市場最高値を更新しました(チャート⑧)。その後、米国、欧州、及び日本も相次いで金融緩和策を拡充し、景気の回復とともに約4年後の2015年12月にFRBが利上げを11年ぶりに決定しましたが、その間は世界的な投資マネーの縮小とともに金価格は大幅に下落、調整を余儀なくされました。(チャート⑨) 最近では2016年11月にトランプ大統領が就任後、税制改革等の公約実現への期待により、米国経済の上昇気運が高まり、金価格は一旦下落(チャート⑪)した後、2017年にはトランプ大統領周辺問題の政治リスクにより金価格は上昇傾向となりました。

3. 原油価格とインフレの懸念

1970年代の相次ぐオイルショックやOPECによる一方的な原油価格の上昇がもたらした世界的なインフレは未だ人々の脳裏から容易には去りません。第二次オイルショックの只中1980年1月につけた金価格850ドル/トロイオンスは2008年1月に書き換えられるまで27年間最高値の座を維持しました(チャート①)。この時期の原油価格の上昇とインフレ発生、それに伴う金価格の上昇は後に「金はインフレヘッジとなる」との定説を生み、同時に「原油価格と金価格は比例する」との見方も生まれました。もちろん必ずしも当てはまるわけではなく、最近は原油価格の経済への影響力は当時と比べ相対的に低下しているはずです。 しかし、2005年のアメリカ南部を襲ったハリケーンによる精油所の被害で金価格が上昇したり、2007年後半以後の異常とも言える原油価格の上昇カーブに金価格が重なっていたりすることは、投機心理的にはこの見方は根強いことを語ります(チャート⑥)。一方で、2008年後半の原油価格急落後も金価格は高値で推移した点は、世界経済混乱への各国の財政出動による新たなインフレ懸念が発生したためとも言われています。また、シェールガス・オイルの台頭や化石燃料以外への世界的なシフトを受け、2014年以降は金価格との相関を逸脱した原油価格の急落が見られ、従来のような金と原油との価格の相関関係は薄れてきています。

4. オイルマネー、中国・インドの経済成長

3項で前述した原油価格上昇の裏返しがオイルマネーの増大です。従来、増大したオイルマネーは石油輸出国の好調な貿易黒字で得た最も強力な投資マネーであり、金にも一部がシフトしていましたが、昨今の原油価格の低迷により従来のようなオイルマネーの流出は見られず、原油輸出国は海外投資を控え、自国の財政強化と安定に努めている傾向にあると言われています。一方、BRICsの中でも好調な経済成長を続ける中国、インドは外貨準備高を順調に増やし、他の資産にも分散する中で、元々金選好の強い国民性であることから、特に金準備に力を入れていると言われています。 今後も両国の経済成長が続けば、特に中国はこれから一般市民にも私的保有が認められようとしており、大きな購入勢力となると見られます。よってこれら諸国の経済情勢が金価格の変動の大きな要因となります。中国は2009年自国の公的機関の金保有量をそれまでの600トンから一気に1,054トンに、2017年には1,800トン超とし、世界で5番目の金の公的保有国となりました。今後も中国の影響はさらに拡大するでしょう。

5. 年金ファンドの参入

2003年オーストラリアに金ETFが世界で初めて上場された後、ロンドン、シドニー、ヨハネスブルグ、ニューヨーク、シンガポール、日本等に相次いで上場されました。そして2017年のETF全体の金保有量は前年比9%増加して計約2,300トンとなりました。最大の金ETFであるSPDR Gold Sharesは金ETF全体の約40%を占めると言われ、この買い手の主役は欧米の年金基金と言われます。元々、金ETFを開発したWGC(ワールドゴールドカウンシル)のバートンCEOの前職は全米最大と言われる「カルパース」(カリフォルニア州職員年金基金)の理事長でした。 年金基金にとって一番怖いのはインフレと同時株安などの危機的状況。それに対抗するため、どのペーパー資産とも相関関係が薄いと言われる金をポートフォリオの一環に組み込むことは重要でした。2007年に大証で金価格連動型ETFが翌2008年に東証にも金ETFが相次いで上場されました。年金基金は短期的に利ざやを上げることが目的のヘッジファンド等とは違い長期的視野で運用する、つまり「バイ アンド ホールド」で、新規に購入された金はほとんど退蔵されるため、目下価格の下支えの大きな役割を果たしていると言われています。 足許の2017年は北朝鮮を巡る地政学的リスクとドル指数下落の加速によって金相場は上昇し、世界の投資家が金ETFにも資金を投入しましたが資金流入ペースは前年の水準から減速しました。

6. 地政学的リスク

元々、東西冷戦時代の1979年ソ連のアフガン侵攻、イラン革命、在イラン米国大使館占拠などで金価格は大きく上がりました(チャート①)。「有事の金」という言葉が生まれたのもこの頃。その後1982年のフォークランド紛争や同年のメキシコ債務危機(チャート②)など国際緊張の高まりが金をはじめとする金属価格や原油などの資源価格の上昇につながりました。しかし、1989年ベルリンの壁崩壊で東西冷戦が幕を閉じ国際緊張が緩和する中、1991年の湾岸戦争では圧倒的な米国の軍事力による瞬時の決着に金価格は反応せず、この頃から「有事の金」から「有事のドル」へと流れが変わりました(チャート④)。 強いドルへの世界的信頼が成立した時代です。しかし、2001年9月米国同時多発テロによる証券市場の一時的機能停止に対し、金市場が影響を受けなかったことに象徴される「有事の金」の復活、以降の中東、パレスチナ、東アジアでの国際緊張に対する心理的ヘッジ先として金が選択肢のひとつとなっています(チャート⑤)。最近でも2016年6月の英国のEU離脱決定(チャート⑩)、2017年4月の北朝鮮の核ミサイル実験、及び米国のシリアへの空爆で金価格は各年初来の高値(チャート⑬)を更新し、有事の金の健在ぶりをアピールしています。

7. 需給バランス

需給の動向は価格決定の基礎(ファンダメンタルズ)となります。これまで世界最大の産金国であった南アフリカでは採掘条件の悪化や鉱山ストなどが要因となり同国の供給は減ってきています。一方、資源を重要な国家戦略の中に位置付けている中国は、ついに2007年南アフリカを抜いて世界最大の産金国となりました。この中国をはじめ一部の国では生産量が増加しているところもありますが、世界全体を見ると新産金は総じて横ばい、乃至は減少傾向にあります。これを補うのがスクラップ回収からのリサイクル金ですが、総供給量の約30%を占めるものの拡大基調とするには量的に届きません。 一方、需要面での主要用途は宝飾品用途ですが、2013年をピークに減速していたものの、2017年にはインドの大幅な回復に牽引され、前年比10%強の増となりました。このように中国・インドの経済成長がもたらす需要は2010年以来8年連続で需要増となっている公的機関による需要や年金基金需要とともに年々拡大し今や大きな比重を占めています。しかも、何れの需要も価格の影響は受けつつも、短期的な利ざや稼ぎが目的でないため、大部分が退蔵され、価格を下げる要因となる売却として大きくは市場に出ないこと、特に公的機関による需要や年金基金需要は将来のインフレに備えて長期保有するのが基本的な姿勢ということが重要なポイントです。

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