豊島逸夫の手帖

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金貨の千両箱

2004年5月27日

一オンス金貨(一枚5万円程度)が100枚入った千両箱が売れている。従来の業界の常識では考えられなかったことだ。金貨といえば、一顧客がせいぜい2-3枚買うものだった。それが、いきなり100枚単位に膨れ上がった。金貨を100枚もじゃらじゃら持つなら、寧ろ、500グラムとか1キロの地金で持つべきというのがこれまでの考えだった。今でも基本は地金だろうが、新しい流れが出てきた。金を買う理由が変化したのだ。一言で言って、"金儲け"から"資産の保全、継承"に変わってきた。バブルの頃は、株で儲けて、土地で儲けて、金でも一攫千金と言うムードだった。それが、さすがに、今や、そんな簡単でウマイ話しはあり得ないことぐらいは皆が分かってきた。けれども、せっかくコツコツ貯めた財産を、少なくとも目減りはさせたくない。なんとか、このまま、老後のため、可愛い子供、孫のために残してやりたいという考えが強まってきた。

そこで、大事なことは、10年、20年に亘って、経済環境の激変にも耐えうる独自の価値を持つ資産をポートフォリオに入れることだ。しかも、子孫に継承するときには、小分け、分割できなければならない。一枚150万円のキロバーでは単位が大きすぎるという場合もある。そこで、一枚5万円の金貨を数多く持つ意味が出てくる。それから、これからの子供たちは国際化のなかで生きぬかなければならぬ。世界中どこでも換金できる資産ということも重要な条件である。事実、WGCが最近行った金投資家実態調査でも、金を買う理由として第二位(36%)に上がってきたのが、世界中いつでも換金できるというポイントであった(第一位は56%のダントツで紙くずにならない資産ということだが)。其の点、勿論、地金でも大丈夫だが、国の造幣局が鋳造した法定貨幣(legal tender)である地金型金貨なら、より通用性は広まる。

それから、金貨は贈る人の愛情が伝わる。贈られる側に立ってみよう。やや生々しい地金をもらうのと、可愛いカンガルーのデザインの金貨をもらうのでは、感じがだいぶ違うのではないか。金貨の価値は、単なる素材価値だけではない。センチメンタル バリュー(感情価値)も重要な一部なのだ。 更に、今話題の年金の足しに買うひとも多い。老後、一月一枚づつ換金して毎月受け取れる(はず)の年金の足しにするというのだ。今の貨幣価値で5万円あれば、ゴルフも数回、あるいはちょっとした旅行もできる。10年後に、それが、同じ5万円で楽しめるか否かははっきりいってかなりあやしい。けれども、一オンス金貨一枚ならば、10年後でも同じ購買力を持ち続けることが期待できる。独自の希少性により価値を持ち、インフレヘッジになる金ならではのメリットである。しかも、10年後仮に消費税が欧州並みの20%近くに跳ね上がっていれば、買取価格に20%が上乗せされるというオマケつきである。

このように見てくると、金貨千両箱にはそれなりの必然性があることがわかるだろう。 ちなみに、この千両箱というのが、実に良くできていて、センスの良いアンティーク家具として立派に使える。筆者も思わず、この千両箱だけでも譲ってくれないかと言ってしまったほどである。

2004年