豊島逸夫の手帖

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夏休み前のおさらい

2004年7月29日

今回は今後の相場展開のポイントを纏めてみる。

1. ドル相場
フローの米経済成長率は好調でも、ストックの双子の赤字は手付かずである。その改善には国民の痛みを伴うから、大統領候補もあえて選挙年のこの問題に真剣に取り組む気はさらさらない。従って、構造的ドル安要因(=金高要因)は残る。但し、短期的には、ドル金利高の要因のインパクトの方が優り、ドル高(=金安)に振れている。ここからは、金相場に関しては、目先弱含みだが、長期アップトレンドは変わらずと読める。

2. ドル金利
その金利だが、これは、グリーンスパン氏の金融政策運営の手綱さばき次第である。直近では、慎重(measured)なペースではあるが、急がず、しかし着実に利上げを進めてゆこうとの姿勢を映して、金相場にも下げ要因としてじわじわ効いている。ここまでは相場が織り込み済みといってよい。問題は、このシナリオが崩れた場合である。相場は常に織り込まれていない要因にのみ反応するからだ。まず、結果的に締め過ぎてしまうケース。これは、各種米経済指標によりスローダウンが明白になっても、グリーンスパン氏が頑固に利上げ路線を変えない場合である。そうなると、デフレに逆戻り。最近は金がデフレヘッジでも買われるので、金は上昇する。(デフレスパイラルー信用破綻の連鎖―実物資産への回帰)。

次に、利上げペースが慎重すぎるケース。米経済が予想以上に過熱して、インフレ懸念が先行、台頭する場合だ。グリーンスパン氏の打つ手が後手後手に廻り、インフレヘッジとして金は買われる。 最後に、金が下がるシナリオはといえば、グリーンスパン氏が評判どおりの手腕を発揮し、米経済がインフレ無き成長をめでたく達成する場合だ。そうなれば、投資家も株や債券だけで心配ない。ヘッジとしての金に出番は無い。 以上纏めると、米経済ハードランディングのケースでは、金が上がり、ソフトランディングならば、金は下がる。グリーンスパン氏とて全能の神様ではないから、ちょっとしたサジ加減を間違えることもあろう。特に、双子の赤字というきつい制約条件を課せられたハンディ戦である。ここからも、金に関しては、目先弱含み、長期上昇トレンドシナリオが浮かび上がる。

3. インフレ懸念
ここでは、高止まりの原油価格の影響がまず頭に浮かぶが、原油高による所謂コストプッシュ型インフレの再来は無いだろう。まだまだデフレの余韻が残っており、オイルショックの頃とは世界経済の状況が異なる。 それより、心配なのは、マネタリーインフレ。日米ともに景気回復、経済危機回避のために、通貨供給をコントロールするバルブを開きっ放しにしてきた。それは、マグマの如く、滞留している。バブルで痛い目に会ってきた投資家たちは、この現象に至って敏感である。WGCが最近実施した投資家動向調査でも、金買いの理由としてインフレヘッジが第三位に浮上してきている。

4. 米大統領選挙
今回の選挙の焦点は、イラク問題である。その次に、雇用、福祉などが経済問題で続く。けれども、双子の赤字解消などという文言はどの候補からもまず出てこない。まずは、選挙民の痛みを和らげる麻酔薬を打つことが最優先である。本当の痛みの元(病巣)には決して手をつけないし、つけられないだろう。その意味では、どちらが勝っても金には大きな影響なしと見る。

5. 地政学的要因
政権移譲後、最悪の爆破テロといっても、市場はすっかり不感症になってしまった。要は、地政学的要因で上がっても、それは結局線香花火でしか無いということを何回か経験してきているから、もはやディーラーも騒がない。今後の、同要因としては、サウジ油田の爆破とか、ビンラディン捕獲といったところか。ちなみに後者は下げ要因となる。

6. 中国経済のバブル懸念
中国特需を囃し、大量の金買いを進めてきたヘッジファンドも、中国経済の引き締め懸念が出た途端に、サッと金市場から引いた。誰が見ても、時速160キロで高速道路を突っ走っているような中国経済成長の持続性には疑問を感じる。セクター別調整は不可避であろう。問題は、その結果、時速何キロぐらいで落ち着くかである。急ブレーキで停止してしまうようなケースは如何にも極端で考えにくい。最も現実的シナリオは、時速60キロの巡航速度に減速する場合であろう。一般道路に下りたときに我々が感じるような心理的減速感が強く残る。それでも、5%程度の立派な経済成長は続いている。市場が冷静になれば、早晩、一般道路のスピードに慣れるだろう。中国経済の長期成長路線は全く変わらない。なお、中国金市場の規制緩和は段階的に進行している。今年から来年にかけて、個人金投資の完全自由化、上海金取引所の先物取引開始などが実現しそうだ。

7. 中銀金売却
ワシントン協定もいよいよ第二次に移行する。ドイツとフランスは今後5年間に500-600トンを売却の方針である。次には、イタリアの動向が注目されるが、それでも、5年間の売却枠総量2500トンをどうやって消化するのか。上記の国以外に、それほど大量の金を保有している国はもう残っていない。金保有ダントツ第一位の米国は、グリーンスパン氏みずから議会証言で金売却は無いと明言している。従って、たぶん売却枠消化は未達で終わるだろう。そういう読みから、金市場も最近はこの問題に至って興味薄である。たまに、空売りしているディーラーがこれを囃すぐらいのものだ。

8. ヘッジ売り
380ドル前後の安値圏では、引き続き鉱山会社のヘッジはずしの買いが出て、それが相場を支える。未だ、大量のヘッジ売り残を抱える金鉱山は、金価格が下がるとホッと安堵する。(考えてみれば、皮肉なハナシではあるが)。420ドルで買い戻すことを考えれば、380ドルなら、御の字である。ヘッジ売り買い戻しのペースは一時に比べ落ちてきてはいるが、相場が下がりにくい要因としては非常に大事だ。以上8項目を精査してみると、結論としては、海外金価格は、目先弱含みながら、長期的なアップトレンドは維持するであろう。円建て金価格については、目先円安に振れているが、ドル円107-114円程度のレンジ相場を前提とすれば、ほぼ海外とバラレル(平行)に展開すると思われる。

2004年