豊島逸夫の手帖

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売るべきか 売らざるべきか

2005年6月22日

国内金価格は円安気味のなかで13年ぶりの高値。買取価格ベースでも1600円前後になってくると、ソワソワしてくる人たちがいる。既に金を保有している投資家たちだ。6年前にグラム1000円以下で買った金を今売れば、なんと6割の儲け。ここは売り払っていただけるものはいただこうか。いやまてよ、もっと上がりそうだから、しばらく様子を見ようか。いっそのこと、更に買い増してみようか。

かと思えば、10年以上前にグラム2000円で買った金を塩漬けにしている人たち。グラム1000円のときを思えば、1600円で売れれば御の字か。そろそろ処分して、金のことは忘れたい。

様々であるが、要は、価格がもっと上がるのか、もうピークなのか、それが知りたい、ということなのだ。

結論から言うと、筆者はセミナー等で1年ほど前から、現在の上昇相場のターゲットはグラム2000円と言ってきた。現在の価格水準を富士登山に喩えれば、五合目付近と言えようか。但し、ターゲット達成は、直ぐということではなく、少なくも3年ほどかかるであろう。だから、キャッシュフローに余裕の無いひとは、とりあえず売って一息つくほうが、精神衛生上も良いだろう。一方、未だ余裕のある人には、躊躇なく"売るのは待て"と勧める。急ぐことはない。相場上昇のモメンタム(勢い)に乗れている勝ち組であれば、下がったところを買い増してもいいくらいだ。

そう考える根拠については、これまで色々詳しく述べてきたとおりである。金価格をここまで引っ張ってきた要因は一過性ではなく、構造的なものである。しかも、材料は一つではなく、6~7個はある。複合要因なので、上昇にも持続性がある。米国の双子の赤字、地政学的問題、信用リスク増大、ヘッジの買戻し、低金利、中国の金自由化などなど。どれを取っても一年やそこらで消えるような簡単な要因ではない。これらが日替わりメニューのように毎日入れ替わり相場に影響を与える。

勿論、短期的にはNY先物市場の投機的売買の影響で乱高下する。この3ヶ月を振り返っても、金利上昇とともに、一時は400ドルを割り込むのではとの弱気論が台頭し、空売りが増えた。けれでも、結局、旺盛な実需が相場の下限を支え、410ドルで下げ止まり、アッという間に440ドル近辺まで戻してしまった。このような短期的売買サイクルを繰り返しながら、長期的には徐々に相場レベルが切り上がってきている。以前は、400ドルになると途端に引っ込んだ実需買いも、今や、400ドルまで下がれば喜んで買い出動する。とはいえ、440ドルに近づくと、現物市場でも売りが先行するから、そう簡単には上限を突き抜けることはできない。新水準に慣れるまで時間はかかる。じっくり待たねばならぬ。

為替も重要だ。ここ数年は円高基調のなかで、それをこなして、国内金価格も上がってきた。国際水準から見れば、海外金価格の上昇分が為替要因でかなり割安に押さえられてきたともいえる。それが、直近のように、円安気味に転じると、これまでの遅れを取り戻すかのように円建てでも上昇が加速する。為替要因というと、円高の下げ材料というのが今までの通り相場だったが、円安という上げ材料にもなり得るということを最近の相場は教えているかのようだ。

最後に下げ材料も見ておこう。ここでは、ドル金利上昇が4%を超えて加速するケース、及び、中国経済が失速するケースなどが要注意だ。これらは、それ自体で長期上昇相場の方向性を転換させるまでのインパクトはないものの、短期的にはNY先物市場に於ける空売りの格好の口実にはなろう。

2005年