豊島逸夫の手帖

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アルカイダの変質

2005年11月10日

今朝(11月10日)の欧米テレビ報道はヨルダンの同時多発自爆テロ。執筆時点で67名死亡。150名負傷。今回のテロがことのほかショッキングなのは、アラブで最も親米派のヨルダンで、グランドハイアットとかラディソン等、典型的米系ホテルを狙っていること。(WGC社員の間では海外出張に米系ホテル宿泊は控える傾向があるほどだ。)ゾッツとするのは、テロ評論家と称する人物の"不幸中の幸い"というコメント。ホテルごとぶっ飛ばされなくてよかった、というのだ。

金市場から見ると、不謹慎な物言いだが、このような地政学的事件は、調整売りが一巡しつつあるディーラーに格好の新規買いの口実を与えたと言える。

地政学的リスクには特に敏感な金市場、更に、ユダヤ系ディーラーが多い金市場に居ると、テロ問題は常にフォローせざるを得ない。そこでの最近の話題は、アルカイダの変貌である。

一言で言って、アルカイダはテロのフランチャイズ化しつつある。ビンラディンというカリスマ創始者は身を潜め、番頭格が各地に散って"支部"を開設しつつある。また、イスラム信者の心とハートを掴むために、ソフト路線も打ち出している。ナンバー2のザワヒリという人物が頻繁にメディアに登場し、"パキスタン震災被害者を救え"などと訴える。元は、エジプトの医者で、容貌も戦闘的ザルカウイなどとは正反対の一見穏健な哲学者風である。そもそもはローカルなテロ組織であったアルカイダを、ビンラディンを説得して国際化させたと言われる人物だ。

世界にとっては、実はこのソフト路線のほうが遥かに不気味である。人民に芽生え急速に増殖しつつある反米、反西側世界の風潮に乗るテロ活動というのは、もぐら叩きに似て撲滅しようにもキリが無い。以前、本欄で筆者はビンラディンが捕獲されれば金価格は下がるかもと書いたが、今は違う。ナンバー1の捕獲は、アルカイダというテロ組織内のモチベーションを高めるだけであろう。市場分析においても一過性ではなく長期的要因となってしまった。

地政学的リスクは、資産運用の世界ではイベントリスクと看做され、それによる運用資産の減価は、運用担当者の支配外、想定外の要因として"免責"される。投資家は自ら自衛措置を講じなければならない時代なのだ。

2005年