豊島逸夫の手帖

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18ヶ月以内に850ドル

2005年12月12日

GFMS(ゴールド フィールズ ミネラル サービス社、本部ロンドン)といえば、金の世界では最も権威ある金統計年報(ゴールド サーベイ)を毎年発行していることで知られる。そこのCEO ポール ウオーカー氏が、先週金曜日(12月9日)にロンドンにおける金セミナーで、12-18ヶ月以内に850ドルも"not impossible=不可能ではない"という大胆な予測を打ち出し、話題を呼んでいる。筆者の盟友でもあるので、金曜深夜に外電で見て、正直"そこまで言うか"と驚き、早速メールを入れた。"ほんとにそう言ったのか?" ほどなく返して曰く、"shocked?=びっくりしたかい?"

筆者の身近では、WGCチェアマンのラソンドが既に1000ドル説をぶちあげて話題となったばかりだ(もっとも、彼の予測はあくまで世界最大の金鉱山会社ニューモントマイニング社社長としての発言であり、WGC会長としてのものではないが)。

先週は、日経の紙面にも1000ドルというような数字が出始めた。

前回、"2006年の金価格展望"で述べたような控え目予測の筆者としては、日々外堀が埋められてゆくような心境である。でも、考えを変える気は全く無いけどね。価格が急騰すると、どこかで予想もしなかった、まとまった売りが出るものだ。更に、個人の小口の売りの五月雨が、早晩、"集めて早い最上川"になるものだ。台風の目が過ぎたあとの吹き戻しは、洪水を惹き起こす。津波の後に荒れた畑だけが残ることを恐れる

過去30年間のヒストリカルチャートを見れば、金価格が500ドルを超えたのは3回のみ。そのうち2回は瞬間タッチに近い状態に終わり、あと1回もせいぜい1年程度のハナシである。つまり、実質的に未知の海域だから、逆に言えば、何とでも言える。それに対し、確固たる反証もできない。特に、530ドルも突破(12月12日午前9時20分現在)したことで、850ドルまでは、上値抵抗線らしいものは見当たらない状況なのだ。ポールの予測も、そのあたりを踏まえての上であろう。

ただ、ここで一般個人投資家にとって大事なことは、瞬間タッチで最高値がどこまでつくかではなく、結局、相場がどの水準に落ち着くかということなのだ。このことを是非忘れないで欲しい。

筆者がスイス銀行のトレーダーとして身をもって思い知ったことは、市場が真空地帯になるときの怖さである。本当に分刻みで5-10ドルを値だけが上に下に飛ぶ。一日に100ドル近く乱高下する。その兆候が、今回も既に散見される。需要とか供給とか所謂市場のファンダメンタルズからは全く乖離した世界である。兜町ではみずほ証券の誤操作で大騒ぎだが、興奮状態の市場でキーの誤操作などつきもの。シニアーディーラーの主な仕事は、誤操作の後処理にあるといっても過言ではないほどだ。そういう状況で瞬間的に何ドルつけた などと騒ぐことが如何に虚しいことか。

そのような事態を恐れ、市場が規制に走ることも要注意である。土曜日の日経朝刊商品面に小さな記事だが、東工取(東京工業品取引所)における"臨時割増証拠金の可能性"についての報道が出ていた。

繰り返して言うが、予測で最も大事なことは、何ドルに収斂するか、ということなのだよ。最高値予測はメディアの注目を浴びるが、その後、どの水準に落ち着くかということは地味でヘッドラインにはなりにくい。本欄の読者の方々は、是非、木を見て森を見ずの落とし穴にははまらないように。どの木が一番高いかという賭けは、せいぜい一回の飲み代程度に抑えましょう。

2005年