豊島逸夫の手帖

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グリーンスパン講演料は金で

2006年4月10日

先週土曜日早朝(マスターズ見たいのを我慢して、これも仕事のためと)CNBCのNY生中継クロージングベルを見ていたときのこと。キャスターのマリア バーティロモさんが、こんなエピソードを披露していた。

そのコーナーではコメンテーターが、"金利は上がっても世界の過剰流動性は減っていない"ということを、通貨供給量M2M3の上昇傾向をグラフ化して語っていたのだが、例によって、その過剰流動性の行く先として金だ、銀だ、というハナシになったときのことだ。

彼女が最近出席したヘッジファンド コンファレンスにおける、大手ヘッジファンドのシタデルなどの関係者との懇談で、その会議の基調講演者グリーンスパン氏の講演料の額が話題になったことに話を振った。講演料の交渉の際に、主催者側が講演料はドル、ユーロ、円、どの通貨で受け取り希望かを聞いたところ、彼は"GOLD"と答えたという。

コメンテーター氏は、"彼は、今までにはないタイプのGold Bug=金大好き人間"、つまり狂信的信者とは異なる冷静な金支持者と述べ、彼の金に対する考えにはcompelling argument(説得力ある議論)があるとしていた。

グリーンスパンの金に関する公式コメントとして有名なのは、1995年上院での議会証言。その当時、欧州の中央銀行が相次いで金売却に踏み切る中、米国はどうするのかと聞かれ、"わが国は売る意志はない。金は究極の価値を持つからだ"と答えた。結果、売らなかったことは大正解となったわけだが。

さて、足元の金価格は、スポット600ドル直前で利益確定売りに押され本稿執筆時点(4月10日朝7時)でスポット589ドルまで下落。思ったより冷静で、且つまともな売りという感じだ。きっかけは、金曜日発表の米雇用統計。新規雇用者数は、事前予想190,000人に対し、211,000人。失業率は4.7%と4年半ぶりの低水準。予想を上回る良い数字に債券市場がまず大きく売り込まれた。10年もの米国債は4.97%といよいよ5%の大台に迫る。ドルは買われ、金は売られるという展開となった。

金市場の反応としては、これまでのインフレ懸念台頭という解釈から、金利上昇懸念という解釈に移ったようにも見える。さすがに金利5%という数字が徐々に現実的になると、とりあえず、いただける利益は確定しておこうという動きのようだ。現場のマーケットにはロジック(相場の解釈)の一貫性を保とうなどという意識はない。ポジションが売りか買いかが、まずは優先する。或いは、インフレ懸念という"噂"で買い上げ、雇用統計好調という"ニュース"で売るという、噂で買ってニュースで売る典型とも言えよう。更に現場のディーラー達の話題は、専ら今週末に迫ったイースター休暇でもちきり。既に手仕舞いモードも強まっている。

なお、ここにきて、債券市場から金市場への資金シフトに注目する論調が特にNY発で目立つ。日本の一般個人投資家にはピンとこない部分もあるようで一言説明しておこう。

いま、米国住宅市場や一部途上国市場のバブル懸念が顕在化するなかで、安全性を求めるマネーの質への逃避現象が起こりつつある。そこで従来であれば、信用度が高く受け皿としての流動性も豊富な米国債が買われる状況なのだが、インフレ懸念、金利上昇下では買いづらく、代わって金が信用リスクヘッジとして買われているという理屈である。

このような考えは特に株、債券に膨大なポートフォリオを抱える機関投資家の間に根強く、従来の資産(=株、債券)をヘッジするという意味で代替資産(alternative asset)と呼ばれる。年金基金にとって金は代替資産なのだ。

最後に、本日は新聞休刊日なので、週末にかけて金に関連するようなニュースを拾っておく。

まず、ウイーンでの財務相会議で世界的金利上昇に関する懸念が明記されたこと。バーナンキさんも利上げには慎重によろしく、というメッセージか。

あと、米国がイラン空爆を検討という報道がワシントンポスト、そしてニューヨーカー誌で相次いで見られたことなどが注目される。

2006年