豊島逸夫の手帖

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金価格620ドル突破

2006年4月19日

昨晩のNYでは、また、大きな材料が出た。FOMC議事録公開で、連銀理事たちの多くが利上げはもう充分と感じていることが明らかになったのだ。金市場にとっては、唯一、奥歯に挟まって気になる材料であった利上げ継続の可能性が、急速に萎んだ。それも変幻自在でトレンドが掴みにくいマクロ経済データからの読みではなく、金融政策運営担当者たちの意見であるところに、このニュースのマーケットに対する重みがあるので、筆者は重視する。

金市場の流れとしては、600ドルを突破したところで、さぁこれから調整が入るか否かというタイミングであった。

価格は上昇を継続。本稿執筆時点(4月19日朝6時)でスポット623ドルをつけている。

さて、昨晩、NY市場のトレーダーとチャットしたときに感じたこと。

しきりに出てくるキーワードが制御不能という言葉だ。

中国の需要増が原油高の背景なんて、今や陳腐化した話でとっくに相場に織り込まれているが、それでも市場が囃すのは、中国の原油需要をコントロールする術がなさそう、つまり制御不能だからだ。中国の全人代でGDPを7%とか8%とかに減速させて過熱化を予防し、環境問題など質的充実を目指すと言ったって、現実にはGDPは10.2%で加速しているではないか。

もう一つの制御不能は、トレーダーのカラダが動かないということ。600ドルという水準は需給ファンダメンタルズでは正当化できないと大脳では分かっているけど、だからといって、ショート(売りから入る)などとてもできない。調整必至と大脳は思っても、指の末梢神経が売りのキーを押すことはできないのだ。これは現場の実感というか本音だと思う。

なお、ここにきて、一般メディアの取材も増えているが、質問のポイントはやはり"まだ上がるの?"ということのようだ。

まだ上がるでしょう、という答えになるが、その理由は?

本欄では繰り返し述べてきたことだが、初めて読む方の為に、もう一度繰り返すと、金価格が上がっている理由が1つではなく、7つも8つもあり、そのどれもが一過性ではなく構造的要因だから。原油高、インフレ懸念、双子の赤字、イラン、イラク、信用リスク、中国、インド、オイルマネー、年金マネー、生産の頭打ち 等々。

昨晩は利上げ打ち止め観測という具合に、日替わりメニューのように入れ替わり材料が出るので、高値圏にも関わらず依然先高感が強いのだ。

原油もそうなのだが、需給構造が歴史的な変化を経験中で、新たな需給均衡点をマーケットが模索している段階。コモディティー サイクルなどとも言われるが、いまの商品市場への資金流入はcyclical(循環的)なマネーフローではない。需給構造の地殻変動的な現象ゆえ、不可逆的と見るべきであろう。マーケットが長期均衡点を探り当てるまでには未だ2年前後はかかりそうだから、相場は基本的に高止まり。勿論、アッというようなオーバーシュートの局面もあろう。

なお、明日20日夕方5時から日経CNBCにナマ出演して600ドル-どうなる金価格-というテーマで語りますから、興味あるかたはご覧ください。

2006年