豊島逸夫の手帖

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640ドル突破

2006年4月20日

成層圏を脱出した金価格は止まるところを知らない。NYは634ドル前後で引けたのだが、その後 時間外取引で640ドルを突破中である。

25年前、スイス銀行チューリッヒ本店のゴールド トレーディング ルームで600ドルを体験したとき、興奮気味の若い筆者に、先輩のスイス人シュナイダーは"チューリッヒの小鬼"らしく冷静に買っては売りを繰り返しながら、片目つぶって、こうのたまったものだ。"Jeff(筆者の欧米業界ニックネーム)、ヒステリーの奥さんに逆らっちゃだめさ"

恐妻家日本人の筆者は、そうか、大きなパワーに対しては無理せず利用する、柔道の理屈と同じだな、と勝手に納得したものだ。

25年後の今の相場にも、理屈はない。バランス オブ パワーというか売買の力学あるのみだ。

今後を見るうえで、唯一"ベンチマーク"ともいえないが、参考にはなるのが25年前の状況との比較である。

  1980年 2006年
イラン情勢緊迫
イラク戦争 ×
原油高
物価上昇率(米国) 12% 4%
ドル金利 10%以上 5%
双子の赤字 財政赤字738億ドル 同4230億ドル
過剰流動性 ×
中国インドの台頭 ×
オイルマネー
年金金買い ×
金上昇パターン 短期急騰急落 持続的上昇傾向

このように比べてみると改めて今回の上げの奥の深さが分かる。はるかに地に足のついた上昇トレンドである。唯一、マクロ経済環境面で、今回はインフレといっても懸念に留まり、切迫感は感じられないが。

海外の大手投資銀行はまたまた価格予測の上方修正に走っている。ゴールドマンサックスは、1ヶ月ほど前に、三極同時利上げモードの中で金利を生まない金からの撤退を推奨していたのだが、ここにきて、2006年の金価格予想値を550ドルから600ドルへ、2007年を575ドルから650ドルへ大幅修正。総じて、欧米投資銀行の見方は、需給ファンダメンタルズから正当化はできないが、過剰流動性とかweight of moneyにより、ETF等新商品経由の資金流入が続こうというトーンである。The trend is your friend.という言葉が印象に残った。トレンドを敵に回すなということだ。

この続きは、今日午後5時からの日経CNBCでお話しします。

2006年