豊島逸夫の手帖

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バブルが弾けたのか

2006年5月23日

先週からの急落で 首題の質問を頻繁に受けるようになった。筆者の答えは、5月10日付け本欄原稿"いよいよバブルか"に記したとおりである。

要点を繰り返す。

いわゆるバブルっぽい市場に比較すると、今、金を買っている人達は、まず欧米の年金。年金資産の長期インフレヘッジのため金をbuy and hold じっくり買い増している。そして、中国、インド、中東というその国々の文化の中に金がとけ込んでいる国々が、宝飾品というカタチで着々と金を買い増している。宝飾品もブランド品を買い上げるのはバブルっぽいが、ノンブランドの低付加価値商品であればしっかりした金価値の裏づけがある。発展途上国で買われる金宝飾品は正にこの類である。しかも女性の身を飾るための購入であり、buy and forget つまり買った後で金価格を気にするような買いではない。

唯一、金の世界でバブルっぽい買いはヘッジファンドかな。ここはbuy and sell 変わり身は早い。だから、この人達が短期的に売りに回ったときが、買い時ということになるというわけで、ヘッジファンドが一斉に引き始めた。

世界的株安の連鎖も同時進行中ゆえ、機関投資家のrisk appetite(リスク許容度)が萎縮している。金ETFの残高もピークの450トンから437トンまで減少した。売買交錯するなかでネットベースで見れば、利益確定売りが優るゆえの現象といえる。

ここは個人投資家にとっては買い場探しの機会となる。

1ヶ月からせいぜい3ヶ月の期間内に一定の実績(リターン)のノルマを課せられている機関投資家と、そのような制約がなく、長期のスパンでどっしり構えることができる個人投資家の立場の差である。

後者は、"時間を味方につける"という優位性を持つ。この事実は、個人投資家の立場からみれば、当たり前のことで、ピンとこないかもしれないが。今の金相場の状況に当てはめれば、6月末までに一定のリターンを出さねばならぬファンドとしては、いただける利益はまず確定しておき、損失が出そうな"ヤバイ"ポジションは早々と見切られねばならぬ。この短期的損切りの売りが昨日の極東時間中に集中して、一時は636ドルまで値を下げた。

そこで待ってましたとばかりに買いに出たのがアジア中東のバーゲンハンターと呼ばれる伝統的現物の買い手たちである。じりじり買い上げられ、NY時間を終わってみれば656ドルまで値を戻していた。

700ドルをつけた数日間に"今がオーバーシュート中。その渦中にいると今がその最中という実感は捉えにくいものだよ"と説いたが、そのオーバーシュート状態が自律的に調整の局面を迎えたわけだ。

期間利益捻出に追われるプロの悲鳴がけたたましいが、ここは時間という百万の味方を盾に冷静に臨もう。

なお、ここにきて筆者が気になる材料だが、米当局が欧州銀行USB、クレディースイス、HSBCなどにイラン関連取引制限を要請したとのNYタイムズ報道。これって、正に26年前、筆者がスイス銀行在籍時に体験したことを同じ状況だ。あのときチューリッヒのトレーディングルームで、行き場を失った中東マネーが金市場に向かうのを目の当たりにした。デジャヴュである。これまでの相場の常識が当てはまらない時代ゆえ、過去の経験はあまり語らぬようにしているのだが、原油高といいイラン情勢といい、現実は史上最高値をつけたときと益々酷似しつつある。しかも、中東株の暴落(これこそ正にバブル弾けたわけだが)により欧米からの回帰を余儀なくされた中東マネーが狭いマーケットのなかで溢れ出さんばかりなのだ。

2006年