豊島逸夫の手帖

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560ドルへ急落

2006年6月14日

24時間で40ドル以上の下げとなった。特に大きな材料が出たわけではない。 金だけ見ていても理由は分からない。マクロのマネーの流れの中での現象である。各マーケットからの流動性(投資資金)引き揚げ現象だ。世界同時株安現象が世界中の個人、機関投資家のリスク許容度を萎縮させた。リスクのある資産から総撤退状況である。とりあえずは、キャッシュポジション増やし、又はドル債に資金をパーキングして嵐の収まるのを待つという姿勢だ。(従ってドルと債券は買われている。)

更に、下げを加速している背景が世界同時利上げ現象。低金利通貨でカネ借りて商品投資につぎ込むというキャリートレードの巻き戻しが起こった。日銀の量的緩和解除も、過剰流動性(カネ余り現象)の一部引き揚げという結果になっている。特に、ここにきて各市場の下げの連鎖を惹き起こしたのが、株の信用取引、商品の先物取引だ。色々な信用、先物の買いを抱えている投資家の立場に立つと、一つの取引の損失をカバーするため、又は追加証拠金を要求されて、別な取引を手仕舞いキャッシュを調達せねばならない という売りの連鎖が起きているのだ。ここに株、商品同時安という現象が生じる。

先物を組み込んだデリバティブ商品を抱える投資家も同様。また、オプションを売った側のプロのディーラーにもストップロス(損切り)のパニック的売りが見られる。オプションというのは、顧客にある一定価格での売買を保証する契約だから、それを保証した側はこのような大荒れ状態になると 気が気ではない。プロ、アマ両方を巻き込んだ"劇場のシンドローム"が進行中である。我先に狭い出口に殺到しているのだが、ストップ安になると その出口は閉鎖されてしまう。

筆者も正直、ここまで投資家のパニック売りが拡大するとは予想できなかった。今更のように、信用、先物取引の包含するリスクを痛感している。デイトレーダーの間でも相当の怪我人が出ているようだ。上げの連続に慣れ切ってしまった多くの市場参加者にとって、初めて経験する本格的下落なのかもしれない。昨日の対豪戦で虎の子の1点を守りきれず、最後の10分で3点もってゆかれたサムライブルー軍団のイメージがだぶる。

現物を保有している投資家はパニックにならず余計なことせずに嵐の去るのを待つことだ。森で熊(ベアー)に遭遇したら 冷静に死んだふりすること。ベアーに鼻先でクンクンされては恐怖心も募るあろうが、これで市場の長期上昇トレンドが一転したわけではないのだから。改めて、"金価格が上昇している7つの理由"(※)を冷静に読み返して欲しい。ファンダメンタルズは変わっていないことが分かると思う。

株式市場で地滑り的下げが生じると、ファンダメンタルズの良い株までが流れで下に持ってゆかれる。こんなときこそ筆者などは食指が動く。商品市場のなかでは、金がそのような優良株に当ろう。


金価格が上がっている7つの理由。

1.原油高とインフレ懸念
70年代に二度のオイルショックを経たインフレ基調で金価格は高騰。史上最高値を記録しました。その連想から、原油など天然資源価格が上昇するいま、インフレヘッジとして金が注目されています。

2.有事の金
いまだ不透明なイラク情勢に加え、新たにイランの核保有問題、そしてパレスチナ問題が深刻化。中東地域における地政学的リスク(火種)がますます高まり「有事の金」人気が加速しています。

3.ドルからユーロ、金へ
米国の「双子の赤字」という構造問題への懸念から、世界的に投資マネーのドル離れが進行中です。まずユーロへの分散シフトを経て、現在では日本株、そして金への運用が拡大しています。

4.アジアと中東のマネー
中国とインドは歴史的にも文化的にも金選好度が高いことで知られています。また原油高で潤った中東のオイルマネーも金へのシフトを開始。世界的に金需要の伸びが見込まれています。

5.中央銀行の金購入
90年代は欧州中央銀行の金売却が金価格を押し下げました。しかし現在では、対外準備資産として金が再評価され、ロシア、中国などの国々で金購入の可能性が指摘されています。

6.信用リスクの増大と金
日本ではライブドア事件が「紙の資産」の信用リスクを顕在化させました。米国ではGMの経営不安や住宅バブル崩壊が危惧されています。「実物資産」である金への回帰が起きています。

7.年金基金の参入
金の現物に投資するETF(上場投資信託)が開発され、長期運用を旨とする欧米の年金基金などが積極的に金購入に動いています。運用資産のリスクヘッジとして金が選択されているのです。
 
2006年