豊島逸夫の手帖

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どこまで下がるの?

2006年6月15日

金価格が短期的に急落しています。
そこで今回はできるだけ易しく現状と見通しについて書いてみます。
以前にも初心者向け指針の原稿のなかで以下のように纏めました。

今回の金上昇トレンドは、その主たる要因が7つもあり、いずれも構造的問題なので、一過性ではなく持続性があることが特徴です。
その7つの理由とは、
1. 原油高とインフレ懸念
2. 有事の金(イラクに加えイラン情勢)
3. ドルからユーロ、金へ(双子の赤字に起因するドル離れ現象)
4. オイルマネーと中国、インドマネー
5. 中央銀行の金購入(ロシア、中国、中東など)
6. 信用リスク増大(米住宅バブル懸念、GM問題、日本ではライブドア、監査法人不信など)
7. 年金基金の参入(金ETFの開発、急成長)

あれから一ヶ月。その間、この7つの要因に大きな変化が生じたのでしょうか。

1. 原油高に起因するインフレ懸念が後退したでしょうか。
2. イラク、イラン情勢が解決に向かったでしょうか。
3. 米国の双子の赤字が解消の可能性が強まったでしょうか。
4. オイルマネーや中国マネーが減ったのでしょうか。
5. ロシアや中国、中東のドル離れ現象が一転したのでしょうか。
6. 様々な信用リスクを心配しなくともよい状況になったでしょうか。
7. 金ETF残高が減り続けているでしょうか。

答えは明白でしょう。
ただ、問題なのは、これほどまでに明確に需給逼迫化が明らかなので、多くの人達がそれとばかりに悪乗りして、一攫千金を目論見たことでした。その主役がヘッジファンドと呼ばれる一団です。彼らは投資妙味があればとことん買い、頃合を見計らって一斉に引き揚げます。株、債券、商品、外為、不動産、全ての投資分野に顔を出していますから、株が悪くなると、他で儲かっているものを即売って、損益のバランスを取ります。出資者に配当せねばなりませんから。
はっきり言って、一般個人投資家にとっては迷惑な暴れ者です。

でも、今後、益々、このようなホットマネーと言われる動きは全ての投資分野で加速化することは避けられません。
さて、ここが一番大事なことなのですが、この短期売買はゼロサムゲームです。つまり、買ったものは数週間、数ヶ月で必ず売られるということです。このような投機的売買は短期的な相場の方向性を増幅させる効果はあっても、根本的に相場の長期トレンドまで変えることはできません。長期トレンドを作るのは、冒頭に述べた構造要因なのです。

今、欧米年金が何故、面倒くさいETFなどという商品を開発してまで金保有に動いているかもう一度冷静に考えてみましょう。短期的差益追求なら先物で充分なハズでしょう。わざわざ信託契約を設定し、金利を産まない金の地金に保管料まで払って、保管されるラージバーのバーナンバーまで特定して、そこまでして現物の金を保有するという行為を"投機マネーの金買い"と言えるでしょうか。これが"バブル"的売買と言えるでしょうか。

以前、金高騰はバブルか という原稿で、バブルっぽい買いはヘッジファンドだけ。中国やインドの女性の金宝飾品購入や年金の金買いは違うよということを書きました。500ドル台もここまで来ると、これまで高値圏で買い手控えていた消費者、投資家たちが間違いなく買いに入ります。(女性が身を飾るという欲求がこの世から無くならない限り、老後にインフレの心配のない時代にならない限り。)あとは決算期を控えて 逃げ遅れた投機家の最後の一暴れはあるかもしれません。

ここは、派手な日々の値動きばかりに目を奪われて、くれぐれも"木を見て森を見ず"ということにならないよう注意したいものです。

2006年