豊島逸夫の手帖

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乱気流は来なかった

2006年6月30日

今週の動きを分かりやすく述べるとこうなる。
飛行中の機内。「これから気流の悪いところを通過致します。乗客の皆様はシートベルトをしっかりお締めください。予想される乱気流は通常の0.25%から、場合によっては0.5%となることもございます」「へえー、そいつは大変だ。隣の株屋さんも、後方座席の債券屋さんも皆ただでは済まんな。くわばら、くわばら」と全員が身構えて機内がシーンと静まりかえったものの、「なんだ、0.25%程度の揺れで済んだか。外の雲も晴れてきて、大したことなかったね」というわけで、株屋さんも一安心。次の8月のFOMC乱気流までは、通常の機内サービスに戻り、ディナーの続きが再開した次第。

以下、コメント風にまとめるとこうなる。
FOMCは0.25%の利上げを決定。8月以降の利上げ継続の有無に関しては、経済状況の変化に応じ、柔軟且つ慎重に対処するとした。今回の決定前は、バーナンキのタカ派的行動即ちインフレに断固対応するために大胆な利上げを断行することを警戒する声が強かったので、マーケットにはひとまず安心感が漂っている。金市場でも、大幅利上げ=ドル買い=金売りを見込んだファンド筋のショート(空売り)を一斉に買い戻す動きも見られ、NY市場では一気に60ドル近くまで急反騰した。と、まぁ、こういうわけだ。

この1週間、世界中の個人投資家までがFOMCだ、0.25%だ、いや0.5%の大幅利上げだのと、ディーラー顔負けの議論を戦わせた。はっきり言って、プロでもないかぎり、このようなマクロ経済の数字に短期的に一喜一憂することは必要ないと思う。細かな数字ばかり見ていると、毎回しつこく言っているように、「木を見て森を見ず」の結果になりがちだから。今、ドル金利の長期トレンドを見るにあたって最も重要なポイントは、今後1-2年間で7%まで上がるのか、逆に3%まで下がるのかということだ。それほどにおおまかに掴むことが個人投資家には大事だ。印象派の絵を鑑賞するときの如く、あまり近くから見ないで遠くからゆっくり眺めると、全体の景色も見えてくる。

そこで、長期のシナリオだが、7%まで上昇するケースは、おそらく原油高が本格的に一般物価に波及し、インフレが懸念から現実のものになりつつある場合であろう。つまり、物価上昇率も5%を超え、実質金利はさほど上がらない。金市場にはインフレヘッジの買いが支配するケースとなろう。逆に、3%まで下がる場合。これは考えにくいシナリオだが、米経済失速の場合であろう。デフレに逆戻り。金市場に関しては、ドル金利下落=ドル安のなかで金が買われる。

そんな、どっちに転んでも金は上がるなんて都合のいいことばかりと言われる向きのために、金が下がるシナリオも。それは現状の5%の水準でメデタシ メデタシ、米経済がインフレなき経済成長、高雇用を達成できた場合である。バーナンキさんへのマーケットの評価も一気に上がる。インフレヘッジもデフレヘッジも必要ない。だから、バーナンキの信頼、人気度と金価格は逆相関にあるといっていいだろう。ドルや株とのみかけの相関に着目するより、現実的な指標かもしれない。

さて、足元では600ドルに強い短期的上値抵抗あり。これを抜けるには、地政学的要因などの市場に織り込まれていないサプライズが必要だ。そういう意味で気になるのは、イスラエルがパレスチナ(ハマス)政権の閣僚たちの拘束という異例の措置に踏み切ったこと。パレスチナ側からイスラエル承認のジェスチャーも出始めた矢先のことだけに不気味だ。雲間から一旦太陽がのぞいた後に天候が急変して嵐になることはよくあるからね。

2006年