豊島逸夫の手帖

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660ドル突破

2006年7月14日

レバノン側からミサイルがイスラエル領内に打ち込まれ、拉致したイスラエル兵はイランに移送とか言われ、マーケットはmajor escalation、 戦局の重大なエスカレートと騒いでいる。原油は77ドルまで新高値をつけ、NY株は続落。金は660ドル突破。

500ドル台で一貫して強気であった筆者の立場から見れば、上げのスピードが速すぎるので警戒気味である。もし、ディーラーでポジション張っているとすれば、ここは、外に対しては"有事の金買い"だと囃しつつ、自分のポジションはちゃっかり売っているだろうね。

さて、今の金市場を取り巻くマクロ環境を纏めるとこんな感じになろうか。

"米国経済号"という名のスペースシャトル。キャプテンはバーンナンキさん。いよいよ地球に戻るために軟着陸(ソフトランディング)を目指し、微妙な舵取りのなかで着陸態勢に入った。ところが、着陸予定地の近くでは、池に向かってミサイル打ち込んでいる怪しい人物とか、お隣さんの土地に侵入して喧嘩している一団とか、爆弾を爆破させている連中などがウロウロしている。さて困った、ここは緊急避難先でほとぼりのさめるのを待とうか、てな形勢なのだ。

そこで避難資産といわれるゴールドに出番が回ってきた。ソフトランディングに成功すれば避難先の必要もなくなるのだが。なんせ、キャプテンも一年目で経験が浅いので、ちと不安。

マーケットの潮流としては、地政学的騒ぎが一巡すれば、世界同時利上げモードのなかのインフレ懸念、スタグフレーションはあるかというマクロ経済要因に、市場のテーマがシフトしてゆくだろう。

インフレ懸念に関しては、商品市場を見る限り原油、金高=インフレの兆しと読めるのだが、債券市場を見るに、米国市場のイールドカーブ(利回り曲線)はフラット。つまり、長期金利も短期金利5%ちょっとで同じ水準。経済の教科書によれば、この現象は投資家のインフレ期待度が低い証とされる。インフレが心配であれば、10年間の固定金利はもっと高くなければ安心できないであろうというロジックである。

それに対して、いや70年代の後半のインフレ前夜に、イールドカーブはフラットどころか逆イールド(長期金利のほうが低い状態)であり、それを読んだ投資家は見事に裏切られた。だからアレはあてにならない、という見方もある。

でも、ひとつ言えるのは、欧米の大手投資銀行のレポートで2006年後半のworst investment、投資先ワーストNO.1に債券が上がるなど(バークレーズキャピタル)、インフレ懸念はそう簡単には払拭されないようだ。ちなみに同銀行は債券から商品へのシフトを奨めている。

2006年