豊島逸夫の手帖

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リスクマネーの撤退から回帰へ

2006年9月5日

5-6月の商品急落局面では、リスクマネーの撤退という現象がしきりに語られた。日銀の量的緩和解除が震源となり、日米欧三極同時金融引き締めモード突入を背景に、世界的過剰流動性収縮というシナリオであった。その象徴的なでき事が、円キャリートレードの終焉とされた。低金利通貨=円を借りて金を買い上げる手法が、ゼロ金利解除ともなれば、最早成立しないと言われたのだ。

その円キャリートレードの復活が、ここにきて欧米市場でしきりに語られている。発端は、日本経済の減速を示唆する経済指標が相次いで発表され、ゼロ金利解除がフライングではないか、円金利引き上げのタイミングは大幅にずれ込むのではないか、との観測が支配的になってきたことだ。そこで、投機筋としては、円キャリーも未だ未だいけると踏んだのだろう。外為市場でその活動を再開した。低金利通貨=円を借りて、即売却。その資金をユーロ、ニュージーランドドル、カナダドルなどで運用するオペレーションである。

通貨先物取引所における投機的円売りポジションは膨れ上がり、外為市場のメインテーマも"円安"となった。それも米ドルに対する円安ではなく、ユーロなど他通貨に対する円安現象である。日米欧経済を比較すると、日米経済はどっちもどっちの問題含みで優劣つけがたいからドル円は動かず。けれども、ユーロ圏経済は日本経済よりはマシとの相対的価値判断が働いている。(欧州経済だって決して褒められた状況ではないけどね。)

かくして再び徘徊を始めたリスクマネーが、レーバーデー ウイークエンドも明けて、本格的秋の陣に突入する欧米金市場にも再び姿を現しそうな形勢である。

リスクマネー撤退論華やかなりし6月9日の本欄で、こう書いた。

ここで最も大事なポイントは、過剰流動性が消滅したわけではないことなのだよ。とりあえず息を潜めて成り行きを見守っているだけ。世界的に流動性引き揚げとか言われるけれど、要は投資マネーが首すくめて、一時おとなしくなっただけなのだ。でも、人間は本当に欲深いゆえ、おカネ持った(持たされた)人達はウズウズしている。長期間に亘りジッとしていられるわけがない。目先は、バーナンキさんの交通整理に黙って従っているけれど、すきあらば何時でもアクションは起こせる態勢は崩さない。

そもそも これまで株、商品を引っ張ってきた中国、インドなどの世界的経済成長のストーリーがこれで終焉を迎えるはずがないでしょ。一部悪乗りしてはしゃぎすぎた人たちが 酔いも醒めてすごすご帰り支度しているだけ。マーケットのfroth(泡の部分)が取れた段階と言えよう。

今は、株も金もselling climax.

売りのモメンタムも第四コーナー回ってホームストレッチ。バーナンキさんは真面目な人。常に真実のみを語る。けれどもその真実が毎日変わる(笑い)。

その息を潜めて成り行きを見守っていたマネーが、うずうずを抑え切れず、秋の虫とともに穴から徐々に頭出して付近の様子を窺い始めたイメージである。秋の陣は、新高値更新を目指しボラティリティー(価格変動性)の大きい激戦となる予感がする。

2006年