豊島逸夫の手帖

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米国中間選挙の影響

2006年9月7日

昨日の稿で諸材料のたな卸しをしたが、ひとつ触れるのを忘れたこと。11月の米中間選挙である。

最近の米国選挙は、イラクとかテロが争点になりがちだったのに対し、今回は経済問題も議論の的になりそうな様相だ。そこで、米国にカネ貸している国々(=米国債を買いまくってきたアジアマネーなど)、そして外為、金市場が最も知りたいことは、ドルのアキレス腱である"双子の赤字"に対する政策である。しかし、そもそも赤字解消策といえば国民に痛みを強いるもので、選挙ではおよそ取り上げられないのが常。今回も例外ではない。

今朝もNYライブのCNBCで共和党派、民主党派、それぞれのエコノミストが延々と議論を戦わせていたが、そのテーマは中産階級の危機ということであった。要は、この数年で景気良くなったというが、中産階級にその実感はない ということだ。株主本位の経営のもと収益はまず配当で還元。従業員の賃金は二の次である。とはいえ、トップのCEOの給料といえば、これまた桁違いの金額が支払われる。かくして、賃金格差は広がるばかり、という問題である。更に、国内経済関連の焦点、景気減速=住宅バブル問題も楽観派、悲観派入り乱れての応酬である。

一方、"双子の赤字"などという言葉が選挙の論戦で語られることは(筆者も色々なディベートを聞いているけれども)、まずないね。このテーマに関しては、ブッシュは今年度の財政赤字が減少することを誇らしげに語る。減税=景気浮揚=税収増という共和党伝統の政策の勝利と位置づける。カネ食い虫ベビーブーマーの大量リタイアがこれから始まり、メディケアなどの健康福祉予算が膨張中なのだが。

一方、民主党は、当然福祉の拡充を語る。もう一つの赤字=経常赤字は完全に他人事である。今年度過去最高水準に達しそうなのだが、借金するほうに痛みは直ぐ感じられないことは古今東西同じ。唯一、人民元切り上げが国内産業向けに語られるが、それも対中貿易不均衡の是正=雇用の確保という観点からの議論で、双子の赤字とか通貨ドルの国際的信認というアングルではない。まぁ、双子の赤字の根本的改善のためには米国民の過剰消費、過小貯蓄に対する反省が必要なわけだが、これはとても選挙で受けるハナシではないよね。

かくして、中間選挙は、ドルに対する根源的不安を増幅させるだけというのが筆者の読みである。ドル離れ現象は加速し、その受け皿としてのユーロ、金へのマネーフローも加速することになろう。

さて、足元の相場は6ドル反落。原油が弱いね。商品市況調整モードの流れに引っ張られている。そのなかでNY金先物買い残高(大口投機家)は300トンという、謂わばレンジの下限を割り込んできたから、先物市場に於ける反転の兆しは感じられる。再び徘徊を始めたリスクマネーの受け入れ態勢は充分ということか。新規材料に乏しく手がかり難という状況で、マーケットの緊張感が緩んでいるところに奇襲攻撃をかけると効きそう。さしたる材料も無いなか、まとまった買いが入ると市場は動揺するもの。買いの口実など後から考えれば良いというのがプロの発想だ。

2006年