豊島逸夫の手帖

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金価格を買うのか、金を買うのか

2006年10月13日

今年の日経プラスワンセミナーの相方は、澤上ファンドの澤上さん。彼とは15年以上の個人的付きあいがあり、考え方も共通するところ多い仲である。同世代(団塊)で、お互いスイス系銀行出身でもある。

久し振りに大阪で彼の講演を聞いたが、益々自信溢れた澤上節が最高潮だった。その後での第二部ということで、金について講演したわけだが、早速、彼の言い回しを利用させてもらった。

澤上氏曰く"株価を買うな、会社を買え"。

株式投資とは本来、成長性のある会社を見つけ出し、その会社に出資すること。それをカタチとして残すために株式という証券がある。しかるに、日本では、短期で株価を追い、売買差益を求める傾向が強い。それを意識した発言だろう。これは、彼の長期投資論の根本でもある。私も、そのとおりと思う。

そこで、この考えを金に当てはめれば、"金価格を買うな、金を買え"。

日々の値動きを追って一喜一憂するのは所詮ゼロサムゲーム。これを大々的にやっているのがヘッジファンド(同じファンドという看板でも澤上ファンドとは正反対)。個人でやっている究極がデートレーダー。

でも、本来の金投資とは、金現物の持つ"誰の債務でもない"という金独自の価値を長期保有することにある。これを実践しているのが欧米年金の金買い。日本でも金現物を購入した個人投資家にその理由を聞けば、53%が"紙くずにならないから"と答える。

それでも、一般の人達が金投資というとまずイメージするのが前者、即ち金価格を追うことではないだろうか。前述の53%の人達だって、最初はそのようなイメージを持っていたと思う。それが、金現物を手のひらにのせ、その重さを感じたときに"これが本当の価値だよな"という実感を抱くようになる。

その手のひらにのせたときの反応で、その人の過去の投資の歴史も分かるものだ。色々苦い経験をしてきた人ほど、"ずっしりくるねぇ。これが価値の原点だよね。"としみじみ感慨深げに語る。そのような経験の薄い、特に若者たちの反応は、もっと軽い。"イヤー 重いっすねぇ..."。

いまの国際金市場に目を向けても、金価格を買う一団と、金を買う一団が同居している。前者は現時点で金売りモードである。後者のアジア、中東マネー、そして欧米の年金マネーは(前者が売って下がったところの)押し目を丁寧に拾うという意味でじっくり買いモード。

株でも金でも、価格を追う人達が長期トレンドを作ることは所詮叶わぬ、という点では全く同じなのだ。

2006年