豊島逸夫の手帖

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相場の景色は印象派の絵の如し

2006年10月18日

先日の某セミナー後の個別質疑応答セッションのときのこと。見るからに真面目で几帳面そうなA型タイプと見られる年配の紳士が、憤懣やるかたなしという感じでまくしたてた。

"だって、そうじゃありませんか、豊島さん。昨日までインフレ懸念だと騒いでいたと思ったら、なんかの経済指標発表後、24時間でインフレ懸念後退とくる。利上げ打ち止め優勢という見方が一夜で利上げ継続に変わる。エコノミストの中長期見通しとやらが毎月のようにくるくる修正される。いったい、私ら個人投資家は何を信じればいいでしょうねぇ?"

まったく、まったく、仰せのとおり。丁度、筆者もあきれていた矢先だったから。それは北朝鮮核実験に対するマーケットの反応。相場が下げ基調の最中に起こったので、当初は、至ってクールなリアクションだった。"いまさら有事の金でもないでしょ"という感じ。それが、ここにきて相場が反発すると、"北朝鮮地政学的リスクによる買い"というコメントのオンパレードである。

だいたいが、そのようなコメントを発するプロの大半が、デートレードを生業とする立場ゆえ、せいぜい24時間、多くは日中の8時間程度しか見ていない。

逆に中長期の見方などは、日々の相場判断に際し邪魔である。(筆者もまさにそうであった。いったん、ポジション取ったら、余計な情報を見ると心が揺れるので目と耳を意識的にシャットアウトしたものだ。朝、ポジション作って、昼は映画鑑賞と決め込み、夕方、デスクに戻ることもあったっけ。)

けれども、個人投資家の立場は全く違う。

そこで、アドバイスとしては、印象派の絵を見るように相場も見よ、ということだ。モネの睡蓮の名画の数々をパリ郊外のマルモッタンというこじんまりした美術館で堪能したことがあるが、その良さは距離を置いて見ないと分からなかった。至近距離で見ても、絵の具の塊が目に付くだけで、なんの絵かさっぱり分からない。

インフレ懸念云々の件で言えば、マクロの景気循環の観点から、デフレの次にマーケットが心配するのはインフレなのだと理解すべし。CPI、PPIの0.2%の振れというような、絵の具の塊だけを見ても埒が明かない。

利上げにしても、大きな流れでみれば、米国が利上げ最終局面であることは間違いない。次の0.25%の行方という絵の具の塊ばかりに目を奪われるべきではない。

でも、性格的にどうしても細部に目が行ってしまう投資家が多いのも事実。幸か不幸か(周りの者たちには不幸なのだろうが)、筆者は至ってずぼらで、どんぶり勘定の性格である。痩せているので神経質に見られがちなのだが。逆に、ふくよかな体型でこだわりの多い人達が周りには多いので、まぁバランスとしては良くしたものだ。

だから、私がこういうと自己正当化発言に聞こえてしまうのが残念なのだが、こと個人投資家の資産運用にあたっては、いい意味でのずぼらさが必要なのだ。そもそも、毎朝のように、本欄に何か書くという行動ひとつとっても、あれこれ考え始めたら継続は絶対無理だものね。

2006年