豊島逸夫の手帖

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1兆ドルという臨界点 パート2

2006年10月25日

10月19日付のこのタイトルの原稿は反響が色々あった。もう一度読み返していただきたい。要は、読者の多くが漠として抱いていた疑惑をストレートに突いたようだ。

中国という貯蓄大国はどこまで外貨準備を増やし続けるのか。米国という消費大国はどこまで経常赤字を増やし続けるのか。その額が両者とも1兆ドルという前代未聞の大台に接近しつつある。2007年という年は、それが臨界点に達する年ではないか。

そこで、当然、この国際的経済不均衡に対する政策的対応として人民元変動幅拡大、ドル安政策という為替メカニズムによる調整が考えられるわけだ。しかるに外為市場の実態はドル高傾向。どうしたことだ、というのがまず素朴なギモンその一。

今の外為市場は、二つのベクトルが支配している。金利差とマクロ経済構造要因(要するに双子の赤字問題)。前者の金利差を見て、まず円が売られ、ドルに対しても、更にそれ以上にユーロに対しても、円安が進行中。低金利通貨を借りて相場を張る円キャリーという手法が拍車をかけている。そのような市場環境のなかでは、ドルの保有者は、ドルの抱える構造的問題に不安を感じつつも、とりあえずはドルで金利を稼ごうという姿勢になる。"とりあえず"である。でも、ドルと心中する気もない。すきあらばドルから逃げ出そうという心の準備も怠らない。

そこで筆者の読みは、当面ドル高現象が続いても、ある臨界点に達すると、ネズミの大群の如く、一斉にドル離れが加速するのではないか、ということだ。例の劇場のシンドローム=我先に非常用出口に投資家が殺到する現象が起きるかもしれない。既に、公的レベルでは、対外準備資産をユーロ、円、ポンド、そして金へシフトさせる現象が始まっている。

さて、読者から寄せられるもう一つのギモンは、日本にも800兆円という、そろそろ臨界点を迎えそうな(国の)借金の山があるのでは、という点。ここでのマジックナンバーは1000兆円か。もはや、真面目に働いて返済できるような借金の累積ではなくなってしまったという指摘なのだ。筆者も同感である。まぁ、こっちのほうは、2007年に臨界点に達するとは思わないが、2010年あたりまでには来そうな様相ではある。ただ、この問題は、ややもすると煽るような論調で語られる傾向もあるので、筆者も注意している。とはいえ、800兆円という数字を実際に帳簿で見てきたであろう霞ヶ関地区の同窓生などが、いざ自分がリタイアする立場となるや、"豊島、金を買いたいのだが、どうすればいい?"などと自己資産防衛に走る姿を見せつけられると正直 考えさせられてしまう。

筆者が週刊エコノミスト2005年12月6日号に"マネタリーインフレ"について書いたときに触れたことの延長になるが、2007年の金市場におけるインフレ懸念とは、原油高騰によるコストプッシュインフレというより、財政赤字の臨界点から発するマネタリーインフレではないかと感じている。

なお、本日(25日)午後5時すぎからの日経CNBC生放送(午後8時過ぎから再放送)に出演して金ETFについて詳しく解説します。

2006年