豊島逸夫の手帖

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円キャリーの津波警報

2006年11月20日

先週は津波警報騒動があり、結果的には、たいしたことにはならずに済んだ。しかし、警報解除後に最大波が観測され、沖で津波どうしがぶつかり合う現象がその原因とされるなど、予想外の展開も見られた。

その津波警報が、ここ数ヶ月、外為市場にも発せられている。円キャリーの巻き戻しという津波だ。これも、来るぞ、来るぞ、といわれて久しいが未だに来ない。警報解除後に来るのだろうか。

震源の円キャリーと言われる取引については本欄でも繰り返し述べてきたが、初心者の方には分かりにくいと思う。しかし、円と他通貨の金利差を見れば、そう難しい話ではない。

円の短期金利は現在0.25%。各通貨との金利差は以下の通り。
英ポンド 4.75%
米ドル 5.00%
豪ドル 6.00%
南ア 8.25%
トルコ 17.25%

これだけの金利差を見れば、依然実質ゼロ金利の円で借りて、他通貨で運用すれば、かなりのリターンが期待できそうである。但し、外貨預金の注意書きにもあるとおり、為替差損の可能性もある。借りた円を返すときに円高に振れていると、金利差も吹っ飛んでしまう。だから、円キャリーが成立する大前提は、円安が見込めることである。ということは、円の先安感が、いったん先高観に転換すると、もうやめたとばかりに一斉に手仕舞い取引=円キャリーの巻き戻しが発生する可能性が高い。

しかも、その円は、長いこと、日銀の量的規制緩和の結果、マーケット内にじゃぶじゃぶ過剰流動性として徘徊していた。一旦はゼロ金利解除で引き揚げかとも思われたが、どっこい、日本経済のマクロ指標が芳しくないなかで、更なる円金利引き上げという可能性に切迫感はない。

かくして円キャリーの残高が膨れ上がったわけだが、それは、円売り残高の膨張でもあった。円を借りた後、即それを売って、他の通貨を買うからだ。事実、通貨先物市場での円売り残高は、未曾有の規模に達した。津波にたとえれば、沖合いまで大きく潮が引いた状態である。さあ、これから怒涛の円買戻しの津波が来るぞ、というわけで警戒警報発令となった。

しかし、マーケットは不気味な静けさを保ったままだ。

でも、筆者は、いずれ時間差攻撃のようにマーケットを襲うだろうと見ている。市場の多くが"狼少年か"と油断した瞬間に来ると思う。問題は、その後だ。それでキャリートレードが下火になるかといえば、矛先を変えて、再び、始まるだろう。その新たな運用先として これまでのサイクルで見れば商品が選択されるかもしれない。"矛先"は今年5-6月に商品、8-9月に他通貨と廻っているからだ。

もうひとつ、津波警報が出っぱなしのセクターがある。米住宅市場だ。ここでも、バブル破綻の可能性が囁かれて久しい。最近ではソフトランディング説が有力になりつつあるようだが、未だ予断を許さない。ここでも、マーケットの大半が"狼少年か"と油断した瞬間が危ないと思っている。住宅市場のハードランディングは信用リスクの増大を意味し、金市場においてはリスクプレミアムの高まりを意味する。

円キャリー巻き戻しは、ドル安=海外金高を意味するが、国内金高は円高の分、相殺されよう。それでも、最近は金市場のボラ(価格変動性)が大きく、そのインパクトは円高要因を遥かに凌ぐ傾向が顕著である。

ドル安といえば、米住宅バブル破綻が仮に起これば、これもドル売り材料となることは間違いない。緊急救済策として、FRBによる短期大量の流動性注入も実施されよう。

金融市場のグローバル化、デリバティブ化という複合要因を考えると、二つの津波どうしがぶつかりあい、ドル離れが加速する可能性にも要注意である。そのときこそ、例のロシア、中東諸国、中国などの外貨準備の一部が金にシフトするタイミングかもしれない。

考えれば考えるほど、この材料は、2007年に向けての金価格を占う上でポイントになりそうだ。

2006年