豊島逸夫の手帖

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ドル離れ相場

2006年11月29日

―本稿は八戸にて執筆中。今日は"北東北"初のゴールドセミナー。主催は青森テレビ。女子アナとの掛け合い。最近は初心者が多いから、こういうトーク形式になることが多い。全く金など考えたこともないお嬢さんの新鮮な発想に驚かされることもしばしば。先日は、女子アナから"私の父が私のために純金積立やってます"というできすぎみたいな本当のエピソードも飛び出した。ここでもマーケットの裾野の広がりを感じる。

さて、欧米のマーケットの話題は専らドル安。感謝祭の期間中に、流動性の薄いところで値が大きく飛んだ。今回のドル売りの特徴は3つ。

1.とにかくユーロが買われている。対ドルで1.30の大台を突破し、1.31、1.32と更に上を窺う気配にマーケットが驚いている。
2.理由は金利差。これまでの金利差要因といえば、ドルの相対的金利高によるドル買いを意味したが、今回は違う。ドル金利動向はどう見ても、利上げ打ち止め模様。経済統計の出方次第で利下げ転換も視野に。一方、ユーロは12月に3.50%へ利上げ。トリシェの発言次第で、来年も更なる利上げ継続も視野に。そして円は、日本経済がもたついているとはいえ、基調はゼロ金利解除から緩やかな利上げが視野に。こうなると、世界的に米ドル金利だけが下の方向を見ているのだ。マーケットは常に先取りして動くもの。そこでドルが売られる。ユーロに買いが集まるのは、円=日本経済より欧州経済のほうが"マシ"に見えるからかな。日本経済がもたついているので、本格的ゼロ金利脱出のタイミングを計りかねている。そこで今の外為市場を支配している価値尺度は"減点パパ"方式だ。日米欧経済どれをとっても"良好"とは言いかねるので、マイナス評価点が最も少ないと思われるユーロが相対的に浮上している。
3.民間部門が金利差で動いているのに対し、公的部門では、ドル持ちすぎの警戒感から、ドル離れが進行中だ。実は、この話、この時期になると何故かマーケットを駆け巡る。本欄のアーカイブを見ても、 2004.11.29 中国、ドル資産減らし、金準備増強の可能性 2005.11.24 プーチン金準備増強発言 ここでも、ドル離れしたマネーの次の宿はまずはユーロ。 でも、その全てを吸収するだけの受け皿ではないから、金へも多通貨分散してくる。

さて、その売られているドルの発券国、米国の経済だが、マーケットは日々、バーナンキの物言い(どういう形容詞や副詞を使って表現したかという英文解釈合戦)、そしてマクロ経済データの解釈に揺れている。ポイントは、住宅市場のハードランディングを回避しようと思えば、利下げ=ドルの価値の下落は避けられない。余り急速にドル安が進行すると、民間、公的両部門に亘ってドル離れが加速してしまう。そうなったら、アジアマネー、オイルマネーに代わって、誰が双子の赤字の面倒を見てくれるというのか。結局は、国際基軸通貨発券国としての金融節度は守れず、FRBは造幣局の輪転機を廻すことになるのでは、という語り尽くされた疑念が再びアタマをもたげる。ここに、ドル離れの原点があるのだね。

2006年