豊島逸夫の手帖

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ドル高サプライズ

2006年12月13日

風邪気味で更新も遅れた。今週は大規模セミナーのお勤めが二つあるので、穴あけられず余計なことせずにおとなしくしていた。今日は日経プラスワンセミナー500名。今年の風邪は腹にくるそうだが、"日経ホールのステージトイレは遠いですよ"と脅される(笑)。週末は取引所主催のギョーカイ向け講習会。これも今年は600名からの応募があったそうで、急遽追加講演となった。コンプライアンスが厳しくなり、改めて勉強し直そうという流れのようだ。

さて、その間の相場は630ドル前後で調整継続。先週金曜日に思わぬドル高(円安)の戻しが勃発し、これには筆者も虚を突かれた。予想を上回る雇用データ発表直後は大した動きもなかったのだが、CNBCのお馴染みお騒がせキャスター(バーナンキ就任直後に夕食会での失言を誘った)マリア バルティロモ姐さんがポールセン財務長官に直撃取材したときのやり取りがマーケットに伝わり、にわかにドル買いが加速。氏曰く"米国経済は至極好調で気分が良い。I feel good about it.ドル高が米国の国益。(これはいつもの言い回しだが)"と。

そして夕べ(12月12日)のNY市場は恒例FOMC騒動。日本時間朝4時15分。米国経済チャンネルが一斉に特別報道体制に移行。キャスターと数名のコメンテーターが待ち受けるスタジオにFOMC速報が電話回線の音声で伝わる。まずはunchanged!金利据え置き。これはノー サプライズ。続いて注目の声明コメント。住宅市場がかなり悪化=substantial coolingと表現されたところでスタジオの面々の眉がピクピク動く。続いて、"とはいえインフレ警戒バイアスを維持"ときて、なんだ、やっぱり、という表情へ。

結局、大山鳴動ネズミが...、そうだなぁ、数匹ぐらいの結果だった。とにもかくにも"ドル安加速"などという見出しが紙面に躍った瞬間にドル反騰という感じだ。マーケットの大半が同じ方向を向くと相場は逆に動くという典型か。更には、プロの外為ディーラーにとってドル売りは"やりにくい""居心地悪い"ことを思い起こす。

プロは自分のカネで相場張るわけではないから、ドルを売るということはドルを借りて売るということになる。5.25%の金利を払ってドルを借りて、0.25%という低金利通貨=円を買うわけで、(今日もご一緒する藤巻さんの表現を借りれば)、これは相当な"ハンディ戦"なのだよ。(一昔前のようにドル独歩高のなかでドル売り連戦連勝なら、どうということはないのだけどね。)

筆者も銀行のディーラーとして金の買いポジション張るときには、まず行内マネーマーケット部門からドルを調達せねばならなかった。その際の行内ドル借り入れコストは、筆者の収益からしっかり差っ引かれる仕組みだ。

理屈では米国経済の構造要因でドル売りと大脳は判断しても、とりあえず毎月のノルマに追われるトレーダーの立場になると末梢神経が逆の動きをする。改めて金利差要因の根強さを実感した次第。

でも、ディーラーの日銭稼ぎは所詮ゼロサムゲーム。長期トレンドを変えることはできない。短期の金利差要因と、長期の構造要因は弁別すべし。

2006年