豊島逸夫の手帖

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650ドル台へ続騰

2007年2月1日

640ドル台で揉み合っていたが、昨晩650ドル台へ乗せてきた。原油反騰、ドル反落を映している。注目のFOMCのご託宣は、住宅市場もインフレも安定化傾向、米経済堅調という内容。これをNY株式が特に好感。

外為市場は、EU首脳に次ぎ、ポールセン米財務長官の円安けん制発言が効いた(1月23日付本欄でも述べたが、このままでは米国内産業が黙ってはいないよ)。WSJ(ウオールストリートジャーナル紙)も円安に関する記事掲載。膨れ上がった円キャリー=円売りポジションの巻き戻しが今後のかく乱要因と見ている。筆者が見る現在の外為市場のイメージは、今にも雪崩になりそうな雪庇(せっぴ)の真下にスキーヤーが何の不安も抱かず遊んでいるゲレンデだね。

さて、昨晩のNY証券取引所(NYSE)のフロアーにブッシュ大統領がサプライズ訪問。バーナンキと示し合わせたかのように、FOMCのご託宣をバックにして米国経済絶好調をアピール。ノリの良いNYSEのニューヨーカーたちが足元の株式相場を盛り上げた感あり。そのNYSEのオープニングベルは東証西室社長とNYSEセインCEOが鳴らし、両取引所の戦略的提携を発表。
日経本紙の解説では、東証が"取引所の国際再編に取り残されるとの危機感"、そして東京市場のグローバル化、競争力強化が背景とされる。具体的提携内容は、REIT、ETFの相互上場を先行させる方針という。

NYSEサイドも事情は切迫している。先日もジュリアーニNY市長が、このままではNYの金融市場が地盤沈下することを懸念。原因は米国市場のコンプライアンス、ガバナンスが厳格にすぎるという点だ。エンロン破たんの教訓で(略称)SARBOX法というのが施行されたのだが、これが人間不信の塊みたいな法律。手続きが煩雑になり、罰則が強化された。締め付けも過ぎると経済の活力を奪うという、"羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く"例であろう。

金融業界では今や、ちょっとなにか"やばい"ことがあるとgo to jail"牢屋行きだぜ"と言われる。公開企業は住みにくいので優秀な人材は未公開企業に流れ、PE(未公開株式)が花形となる。更に、公開企業より同族企業のほうががんじがらめではなく、四半期ごとの業績に左右されず長期戦略的経営ができるので比較的業績も良いというレポートをクレディースイスが発表するほどだ。

そこで見直されているのがロンドン市場。より現実的な対応がウリだ。むろん厳格なのだが、理不尽なまでの頑固さはない。まず規制ありきの発想ではなく、マーケットがフェアーかつ効率的に機能するためにはどうすればよいか、という視点で当局も考える。ロンドン金市場もBOE(イングランド銀行)とLBMA(ロンドン金市場協会)との暗黙の紳士協定の上に成り立つ。以前、某米系金融機関がからむデリバティブ破綻事件があったとき、ロンドン市場には当局からいち早く警戒警報が発せられ、焦げ付き債権者リストにロンドン系の名前はなかったという例もある。ギブアンドテイクの精神ゆえ、民間からは取引データなどが当局にはきっちり開示されることは勿論(もちろん)だ。

話は戻って、そのような事情でNYマーケットにも危機感がある。そこで取引所同士の提携強化となるわけだが、ここでの問題は国による法律、規制の違いがあらわになること。規制緩和が遅れている国の実態が白日の下にさらされ、即、グローバリゼーションの流れに対する抵抗勢力のレッテルを貼られてしまう。(NYのようにコンプラが過ぎても敬遠されるが。)日本の金市場のグローバル化も待ったなしとなってきたようだ。

2007年