豊島逸夫の手帖

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21年振りの高値は買いか

2007年2月13日

本日は、初心者向けに書きます。

いま、貴金属会社の店頭は、手持ちの金、金製品などを換金する人達であふれかえっています。一方で、新たに金に興味を持ち、買いを考えている人達も多くいますが、いつ買ったらいいのかタイミングを計りかねている状況のようです。
そこで、どうするべきかという指針なのですが、ここでまず知っておいてほしいことがあります。

まず、21年振りの高値というのは日本だけの現象です。120円を突破した円安が原因です。欧米では現在660ドルですが、昨年の高値は730ドルでした。そういう状況なので、統計的に見ても、これほどの換金売りが目立つのは世界でも日本だけです。世界の趨勢は、売りもあるけれど、長期的に買い上がる人たちのほうが多い。それゆえ、海外の金価格が短期的乱高下を繰り返しながら、徐々に価格水準を上げてきているのです。

例えば、最近注目の中国、インドですが、昨年金価格が急騰したときは買いが引っ込み模様眺めに転じた時期もありました。しかし、いつまで経っても価格がそれほど下がらないので、昨年後半から徐々に買いを再開しつつあるというのが現状です。欧米では、金ETFという新商品を通じて年金基金が一貫して買いを入れています。この2年間で、中国の2年分の消費量を買ってしまいました。

それに対して売りはどうかといいますと、これまで売ってきた人達が影を潜めていることが特徴です。90年代には金価格が下げ続けたのですが、その当時の売りの主役が中央銀行と鉱山会社でした。その当時、中央銀行は今更有事の金でもあるまいということで(911テロやイラク戦争勃発などとは想像もつかず)、国家保有の金を売却しました。鉱山会社も90年代はもっと下がるかと不安に駆られ、未だ生産していない分まで先物で売ってしまったのです。両者とも結果的には300ドルというような今の半値で売却してしまいました。そこで最近は売りも様変わり。中央銀行の売却は2006年に半減しています。逆に市場では中国、ロシア、産油国などの政府がドルばかり貯めこんでいるので、いずれ金に分散運用してくるだろうという観測が流れています。

鉱山会社に至っては、先物で売った部分を買い戻しにかかっているのが現状です。要は、相場が下がると見て先物で売った人達が、慌てて損切りの買戻しに走っているという構図です。鉱山会社が市場で金を買うというのも考えてみれば不思議な光景ですね。でも、統計的に見ると、昨年は鉱山会社が年間2500トン弱の金を生産する一方、400トンの金を買っているのです。

それから、これも大事なことですが、2500トンという金の生産量が高価格にもかかわらず殆ど増えていないこと。金の埋蔵量は未だあるのですが、それが、地下3000メートルとか太平洋の海底などとんでもない場所にしか残っていないのです。

ここまで読めば、"それなら価格が上がるのは当たり前じゃないか"ということになるでしょう。その通りですが、そうなればプロのヘッジファンドなどが黙って指くわえてみているわけがありません。おいしい投資先を見つけ出資者に利益還元をすることが仕事ですから、3ヶ月から半年のサイクルで売り買いを繰り返しています。その度に市場は乱高下しますが、彼らが一休みしたときの価格水準は長期的に見ると徐々に切り上がってきているのです。それは、中国、インド、産油国、年金マネーなどが長期的に買い続けているからです。

さあ、そこで、個人投資家はいつ買えばよいのか。円安による円建て金価格上昇分は、これはオマケみたいなものです。あまりアテにはできません。しかし、世界の趨勢は長期的な金買いに動いている。でも、プロでも短期的相場動向をピンポイントで当てるのは至難の技です。そこで、正解は月々定額で買い増してゆくこと。なんだ、ずいぶん常識的な話だなと思われるかもしれません。でも、相場に魔法の杖はない。毎月少しずつ買い始めて、慣れてきたら、円高などで価格がストーンと下がったときに別途スポットで買い増せばよい。

不思議なもので、月々3000円でも金を買い始めると、その日からイラク情勢とかバーナンキの発言などが気になるものですよ。バラエティー番組ばかりでなくNHK衛星の世界のニュースなども見るようになる。日本人に最も欠けるとされる国際感覚が自然に身についてきます。その時々の価格動向は本欄をウオッチしていればつかめます。ずっと本欄を読んできた人達はお分かりと思いますが、私は投機筋が冷めてきたときに熱くなり、彼らが熱くなるとトーンダウンする傾向がありますけどね。

21年振りの高値だから買うのではなく、これから益々稀少になる天然資源を資産の一つに加えておくぐらいの気持ちで臨みましょう。"投資"などと気張らずに肩の力を抜いて考えてください。

2007年