豊島逸夫の手帖

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660ドル台回復

2007年3月22日

世界同時株安以来、640-650ドルのレンジでの調整を続けていた金市場。さしたる材料もないので更新の間隔が開いた。そのレンジを上放れたのが昨晩のNY。FOMC声明をきっかけに取引時間外でスポット665ドルまで上昇。市場のテーマは本来のドル安に戻っている。といっても外為市場では"円安、ドル安"の展開ゆえ、日本人投資家にはドル安、金高といってもピンとこないかもしれない。つまり円の独歩安ということ。

FOMC声明は例によって日本時間早朝に半分眠りながら米CNBCの実況中継を見ていた。Tightening bias =引き締めバイアスを緩めたとの"英文解釈"でマーケットがまとまり、ドル売り、株高、債券高の展開。実況中継を見ていると、発表直後は英文解釈も諸説紛々でまとまらず。ほどなくしてコンセンサスに収斂(しゅうれん)してゆく。それほどに見方によっては色々な解釈ができるのだ。

結果的には米利下げトレンドが確認されたカタチ。これからのテーマは米景気後退の度合い、利下げのタイミングということになりそうだ。欧米でドル相場のベンチマークとして見られるドル-ユーロのレートはドル安の展開となりそう。それをテコに海外金は買われそう。ドル円はキャリートレード要因という特殊性により独自の道を歩んでいるので海外金高と円安の同時進行、あるいは局面によっては海外金安と円高の同時進行が見られそうだ。つまり、円建てではよりボラティリティー(価格変動性)が高まろう。

もう一つのテーマがサブプライム。この言葉を本欄2月9日"米住宅市場異変の兆し"で最初に取り上げたときには、サブプライム??また豊島が、訳の分からない英語を振り回しているなという程度の反応だったが、いまや、"みのもんたさん"が引用するほどに一般化してきた。あの時、例に出したニューセンチュリーというサブプライム大手は、いまや上場廃止へ。こうなると陳腐化してマーケットにも"織込み済み"となる。この問題を先読みすれば、ポイントは二つ。

―サブプライム債権を切り離して、資産担保証券(CDO)のカタチで投資家に販売していたスキームに波及する可能性。信用度の低い借り手に対するローンは高金利。ということは貸す側からみれば高リターンの投資ということになるので、これを多くの大手金融機関がミックス定食みたいに色々揃えてハイリターン商品として販売してきたわけだ。そのミックスの中身を把握せずに投資家は高リターンにひかれて購入してきた。実態を把握していたら、たぶん怖くて買えなかっただろうけど。CDO=collaterized debt obligationというキーワードもややこしい英語だけれど、今後は注目しよう。

―住宅市場不安が負の資産効果を通じて米個人消費に悪影響を与える可能性。マーケットとしてはこれが一番"やばい"。誰だって自己保有の不動産が減価すれば消費意欲もなえる。 その結果起こる米景気後退の金市場に対する影響はどうか。宝飾需要、工業用需要には明らかにマイナス。投資需要にはドル安、利下げを通じてまずはプラス。中長期的には住宅市場発の信用リスクが顕在化すると(エンロン破たん後に見られたような)信用リスクヘッジの金買いに発展する可能性もある。もっとも悪いシナリオは住宅市場不安に原油高が重なるスタグフレーション(景気後退と物価上昇の同時進行)のシナリオだ。

以上をまとめてみると、米景気後退の影響は、アジア中東の需要が伸び悩み、NYでのETF需要が増大するようなパターンとなろう。

2007年