豊島逸夫の手帖

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相場も心理も大元は変わらず

2007年5月31日

足元の相場は650ドル台で依然調整中。

昨日は上海株急落が中国金需要下落の観測を生み、NYで金が売られたとの外電報道。でも、NY株は同じ材料に反応していない。つまりは、金ショート(空売り)の口実に使われたということだ。冷静に見ても、株式売買に対する若干の増税で株投機熱が冷めるとも思えないし、ましてや金宝飾需要を減少させるほどにマイナスの所得効果を持つとも思えない。先日の中銀売却増という"売りの口実"も同様だったが、こういうミエミエの後講釈には要注意である。

5月もいよいよ期末を迎え、金ETF残高も587トンから579トンへ急減した。明らかに5月決算のヘッジファンドの益出し売りである。注目は、6月からの新期が始まり、残高がどのように変動するか。

NY金先物買い残高は300トンを割り込み298トン。ピークの400トン超から、これも急減した。近年の趨勢では、300トンを割り込めば、地合いは軽くなったといえる。新規買いは入れやすい。さらに、空売りが増えているということは、とりもなおさずショートカバー(買い戻し)が出やすい環境でもある。最近のリスクマネーは回転が速く、売りポジション持っても、直ぐに結果を求める。多少下がれば、すぐに利益確定の買いを入れるし、意に反して反騰すれば、焦れて損切りの買いを入れる。

今月は、現役のディーラー諸君や、そのボスたちとの会食が続いているのだが、つくづく相場というのは変わらんなと思う。たしかに情報伝達とか決済システムはハイテク化しているのだが、いかにプログラム化と言ってみたところで、最終的な売買判断の"大元"は人間の頭脳である。ゆえに、マーケット"心理"などは古今東西変わらない。たとえば、金をショートしたときの、なんとも気味悪い気分。売りのリスクは"青天井"などと昔から言われる心理は、ディーラーなら誰しもが経験しているはずだ。商品もデリバティブ中心にたしかに複雑化しているのだが、"大元"は金1グラムあるいは1オンスの売り買い、そこから派生する円やドル資金、この二つの取引の貸借記である。それをパーツにして、いかに商品を組み立てるか(ストラクチャーものを"組成"するか)というところで、各社が凌ぎ(しのぎ)を削るわけだ。

そこで、思うことは、そもそも金の価値の"大元"は、数億年の自然現象により"組成"され、その存在は古代エジプトから富や力の象徴として人間の"心理"に意識されてきた。そういう稀少資源をちょこまか売り買いして儲けようなどという魂胆は、そもそも人間の思い上がりではないのか。筆者にしても、思わず知らず日々の相場の変動に気を奪われていることがしばしばだ。

過日、早大の吉村作治先生と対談する機会があったのだが、壮大な古代エジプト文明の中のゴールドの話をあらためて伺って、なにか自分の気持ちがチマチマと卑小なものに感じられたことを思い出した。

2007年