豊島逸夫の手帖

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ECBショック

2007年8月13日

先週、欧州中央銀行が15兆円相当もの緊急流動性注入を実施したことは、マーケットに大きなショックを与えた。素朴な疑問で"今、何故"ということだ。直前にBNPパリバ(仏大手銀行)がサブプライム関連資産を束ねて組成した資産担保証券を凍結というニュースがあったものの、その程度で15兆円もの緊急資金供給を正当化することは出来ない。ECBは、我々が知らない、かなりヤバイ情報を握っているのではないか?とマーケットが疑心暗鬼になった。特に、保守的なECBはFRBと異なり、危機を未然に防ぐ目的でこのように機敏に動くことはなかったから、なおさらだ。独ブンデスバンクはIKBという中堅金融機関がサブプライム投資失敗で実質破綻したことで、全ての銀行に米住宅関連の債権保有の実態を報告させているという。

ここに至って米国住宅問題は、日本、欧州と世界中に飛び火したことになる。サブプライムというウイルスは、その高利回りに誘われた世界中の投資家の体内に侵入していた。何千、何万という住宅ローン債権を束ねて債券が組成され、それが世界中に切り売りされていた。このやり方自体はローンの焦げ付きリスクを世界中の投資家に分散させる効果があった。皆で渡れば怖くない、の例である。しかし、金利が上がり、差し押さえ物件が急増し、さらにローン獲得競争のなかで、金融機関が借り手の年間所得などを膨らませて手続きしていたことなどのいい加減な実態も露見した。こうなるとプライム(信用度の高い借り手)の中にも、実質サブプライム(信用度の低い借り手)が含まれているのでは、という疑念も生じる。

ここまでくると、リスクを分散したはずの手法が、単に粗悪な債券を世界中にばら撒いただけという話になってしまう。可哀想なのは、(自業自得とも言えるが)、このウイルスに感染していた投資家たち。BNPのようにファンドが凍結されると解約も出来ず売るに売れないのだ。

不安に駆られた彼らは、売れるものから売ってゆく。株、そして商品も。ついには特段問題ないようなファンドにも解約が相次ぐ。商品市場から見ればとんだとばっちりだが、この手の売りは一巡すれば終わる。問題はない。

注目は、売れるものを売った資金がどこにゆくのか、ということ。まずは米国債。そして金などへ"質への逃避"マネーが流れる。事実、先週金曜の欧米金市場には、この種の買いが見られた。したがって金市場には換金(益出し)売りと、安全性を求めるマネーの買いが同時進行している。660-670ドル台を一日10ドル前後の幅で変動しているのだ。

なお、今後サブプライムが悪化の一途をたどると、企業が新規資金を調達したくても出資者不在の起債環境となり、影響が金融経済から実体経済に及ぶ。そうなると商品市場の需給にもマイナス要因となるから要注意だ。

2007年