豊島逸夫の手帖

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リスクの連鎖

2007年8月17日

サブプライム市場自体は、全体から見れば大きな規模ではない。しかし、サブプライム発のリスクがドミノ現象で他の(健全な)セクターにも波及するというリスクの連鎖が、事を大きくした。

ゴールドマンサックスのGlobal Equity Opportunities Fundなど三つのファンドが1兆円の規模を持っていたが、3000億円の資金投入を余儀なくされたケースなどは、まさにリスクの連鎖の例である。

年初来の下落幅は30%に達したが、その大半がここ一週間に集中している。運用方法はコンピューターのプログラムによる手法。今回は、そのソフトウエアの想定外の株価変動が生じた。そのような突発的損失が生じると、プログラムは自動的に他の保有銘柄を売却して損失を補填すべく指示を出す。かくして"健全な銘柄もとばっちりの売りを浴びる"という現象が生じる。

昨晩は、金市場へも、そのリスク連鎖が波及した。650ドル台へ急落。円高も進行し、円建て金価格は大幅な下落となる。

金市場の需給ファンダメンタルズは変わらないのだが、リスクマネーの撤退のなかで、投機的金買いポジションも手仕舞われるというお馴染みのパターンだ。

今回は金ETFも残高が630トンから622トンまで急減しているところに投資家の狼狽の様相がうかがえる。

先物もETFも売り局面。Oversold(売られすぎ)の兆候が見える。4-6月期の世界金需給速報を見ても、需要セクターの内訳が示唆的である。投資需要の中身を見れば、欧米機関投資家部門はマイナス104トン(売り越し)。対してアジア中東の個人投資家部門はプラス147トン。5月の決算期前にヘッジファンドが売ったところを、リテールの投資家(バーゲンハンター)が拾っていったという構造である。

そして宝飾需要は前年同期比32%増の697トンを記録。とくにインドは期間最高を記録。中国も30%増。明らかに高値慣れの様相である。このような需給ファンダメンタルズが支配するなかで、今回もヘッジファンドが換金、益出しの売りに走った。ゆえに、現在進行中の下げ局面は、長期的買いゾーンと判断する。とくに円高が進行中なので、日本人投資家にとっては、割安な価格水準となった。

さて、サブプライムの嵐だが、日米欧の中央銀行が緊急資金投入を実施し救済に動いている。FRBの緊急利下げも視野に入ってきた。冒頭に述べたゴールドマンも自己資金投入2億ドルに加え、ゴールドマン・ファンの大口個人投資家数名の応援(1億ドル)を得た。このような各種救済措置は、結局モラルハザードを産むのでは、との批判もある。要は、投資家がハイリスクハイリターンの投資で損を蒙ったことは自業自得なのだから、何も救済などで甘やかす必要はないという論調である。(日本のメディアでこんな発言したら、たちまち正義の味方の一般紙に叩かれるだろうが...)

金市場では、先物、デリバティブの損が"市場混乱の沈静化"という大義名分の下、救済されるとすれば、投資家にとって、こんなおいしい話はなかろう。ノーリスクハイリターンとなる。サブプライムの救済も程度問題ということだろう。ECBのような"無制限"の資金投入となると、"やりすぎ"ということか。

2007年