豊島逸夫の手帖

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大量ステロイド治療

2007年9月19日

バーナンキ医師は、ステロイド投薬量を通常の25ミリグラムではなく50ミリグラムという思い切った処方箋を書いた。ウオール街から欧州にまで伝染性サブプライムウイルスが拡大する危機感のなかでの決断であった。そして、医師の期待どおり、まずは強力な即効性を発揮している。

NYからのCNBC実況中継見ていたのだが、株、債券ともに、日本時間朝3時過ぎのFOMC発表直後から急騰。瀕死の患者を抱える金融機関には、安堵の声が溢れる。

でも、この医師は、本薬の副作用の説明義務を怠っている。それは資産インフレという症状。糖尿病のごとく痛みを伴わず徐々に進行する。しかも今問題になっている向精神薬リタリン(なぜかリターンと一文字しか違わない)がもたらすようなハイの症状も出る。

原油80ドル突破、食物価格高騰が進行するなかでの0.5%の利下げの意味は大きい。FRBは目前にせまるインフレには目をつむり、経済成長維持を重視する姿勢を明確に打ち出したからだ。これは短期金利の問題とはいえ、短期の問題ではない。

インフレヘッジだが、金利を産まない金にとっては、ますます長期上昇トレンド維持が確約されたようなものだ。さらに、ドル安も対ユーロで進行。1.40の大台目前である。そして円キャリーも復活の様相。マーケットの安堵感は投資家のリスク許容度を高める。"行き詰まっても、バーナンキ医師がまたステロイドを増量してくれるさ"といわんばかりに。モラールハザードの典型か。日銀の利上げも、とても実行できる雰囲気ではない。

結果、世界的ドル安傾向に触発された国際金価格上昇とローカルな円安の同時進行というパターンが再現している。

なお、ウオール街では、50ベーシスの利下げを深読みする向きも多い。バーナンキは、本当の病状を患者に告知していないのではないか。ヒョッとして"がん"(大手金融機関の経営不安)なのではないか。They know something we do no know. (我々が知らないことを彼らは知っている)という疑念が消えない。

とにもかくにも金価格上昇には弾みがつく結果となった。筆者の見通しも、年末までに700ドル(9月4日本欄)から、年末までに昨年の高値730ドル(9月10日)と変わり、昨晩の出来事で来年には瞬間タッチだが800ドルもありと再修正しておく。為替を120円とすればグラム3000円か。

その過程ではヘッジファンドの利益確定売りの津波で650ドルまで急降下もあるだろう。調整が長引く局面も必ずある。ヤンキーズ松井のスランプと同じで7月には月間最優秀賞の活躍のあとで、9月の打率は1割そこそこの低迷もあるのだ。

潮流としては、今年一年かけて600ドル台を固め、来年は700ドルを固める年と見る。サブプライム、ドル離れ、利下げ、原油高と日替わりメニューのごとく買い材料が出る地合いが続く。

筆者が下げ要因として語る"スタグフレーション""実質金利上昇""中国のバブル破綻"のシナリオは説得力を失っている。

今後のサプライズとしてはロシアの金購入、大手鉱山会社M&A=ヘッジ売り大量買戻しなどを想像している。

実質的に未知の海域を進む"ゴールド丸"の行く手には、思わぬ岩礁というネガティブサプライズも覚悟している。

ただひとつ自信をもって言えることは、長期上昇トレンドは不変ということだ。

2007年