豊島逸夫の手帖

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漁夫の利?

2007年9月26日

0.5%の利下げは、"信用収縮を患った債券市場、マネーマーケット"という患部を、ピンポイントに狙って実行された処置であったが、その効果が最も顕著に出たのが実は周辺部位の新興国株式市場と商品となっている。それら市場内から見れば"漁夫の利"だが、バーナンキ医師から見れば"薬が強すぎて患部の周辺部位にバブル症状を発症させた"との診断となろう。

特に"インフレ不安感"という副作用に最も敏感に反応したのが金市場である。昨晩も調整売りで一時722ドル(スポット)まで急落したが、NYが終わってみれば732ドルまで買い戻された。

昨晩NYの連中と話していると、話題はイランとサウジ。イランは昨日書いたように同国大統領のNY訪問が米国民の神経を逆撫でして、改めて地政学的リスクとしてフロアーで語られている。特に、サルコジに代わったフランスが対イラン政策に関して明確に米英と歩調を合わせる姿勢を打ち出してきたことが新材料である。

彼は"Iranian bomb or bombing Iran"(イラン製爆弾かイラン爆撃か)などと発言。同国新外相は"最悪に備えるべき。その最悪とは戦争である"と公言して憚(はばか)らない。イスラエル高官に至っては"イランを攻撃すべきか否かではなく、いつ攻撃するかが問題なのだ"と語る。同国戦闘機がシリア空域内で交戦した事件については、イスラエルと米国が"北朝鮮支援核施設"を狙ったとほのめかす。

サウジについても先日書いたが、ドル離れ姿勢が顕著である。きっかけは、FRBの緊急利下げに強調せずSAMA(同国の実質的中央銀行)が金利を据え置いたこと。それが同国通貨リヤルのドルペッグ離脱の観測を生み、ヘッジファンドが100億ドル相当と推定される規模のドル売り、リヤル買い波状攻撃をかけた。その背景には5月にクエートがドルペッグを離脱した際に同様の投機売買を行い大儲けした先例があり、二匹目のドジョウを狙っているわけだ。

SAMAは推定1兆ドル(中国の1兆3千億ドルに次ぐ)といわれる"隠れ外貨準備"を保有し、オイルマネーの代表格である。米ドルに偏った多通貨ポートフォリオのリバランスとして、その数パーセントでもドル売りに走れば、その影響は外為市場全体のドル売りに拍車を掛ける。

足元で金価格が調整売りをこなして高値圏を維持している背景がここにある。昨晩、原油急落にも金は反応薄であった。これは、原油高が先んじたために、金市場には出遅れ感が残るゆえと思う。

NY市場では、米国経済の先行きにつき、リセッション(景気後退)かインフレか、意見が真っ二つに分かれる。故に"方向性を欠く神経質な地合いで波乱含み"というお決まりの講釈となる。(分からんとは言えないからね。)

目先の金価格に関しては730ドルは需給ファンダメンタルズに裏づけされない水準という意味でバブルだと思う。

グリーンスパンさんが、いいこと言っているよ。"バブルなんぞは人間の欲望あるかぎり避けられない現象。中央銀行がそれを予防するために諸々の処置を講じても詮無いことだ。マーケットにやりたい放題やらせたうえで、中央銀行は後始末に廻れば良い"。引退すれば本音を言えるのだね。

2007年