豊島逸夫の手帖

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真夏の夜の悪夢の実態

2007年9月27日

8月のNY株"超"乱高下は、正に真夏の夜の悪夢であった。そのボラティリティー(価格変動)を引き起こしたヘッジファンドの8月の業績が相次いで発表されている。

筆者が最も興味あるのは、ファンドごとの個別の数字ではなく、マクロで見た全体の売買動向の数字である。そこで説得力あるのが、DJ(ダウジョーンズ)指数対象30銘柄につき、株式のカストディアン銀行(ファンドの保有株式を保管する銀行)の記録である。

まず、DJ指数の変動をおさらいしてみると、7月下旬に急落後、8月の第一週には13,250から13,650まで反発。直後、再び売り込まれ、8月16日に売りのクライマックスを迎えた。同日には始値も終値も12,850だが、日中の安値は12,500までつけるという典型的底値パターンであった。

その過程のヘッジファンド全体の動きは、7月末にから8月初旬にかけて売り攻勢。8月第一週にかけては特に(それまでの)価格上昇銘柄を約23億ドル相当売り込み、価格下落銘柄を約5億ドル相当買うという動きであった。まずは取れる利益はいただき、値ごろ感のあるものは買うという余裕があったのだ。

これを第一波とすれば、第二波がヒットするや、良いも悪いも両銘柄ともに約20億ドル相当の売りに転じる。こうなると完全に逃げの姿勢である。第一波と第二波の間のつかのまの反発の実態は、約40億ドル相当の自社株買戻しであった。その間、個人投資家は一貫して模様眺め、そして8月の第二週に入るや、約17億ドル相当の買いを入れている。

この短期投機家の売りで下げ、長期投資家の買いで上げるというパターンは金市場でも同じであった。ヘッジファンドが益出しの金売りに走った後、年金や富裕層などの長期投資家が金ETFを買い上げるという展開である。結果、650ドルが底値であった。

そこで、一旦は撤退したプロのファンドが680ドルの大台を突破したあたりから徐々に再参入してくる。リスクマネーというのは喉元過ぎればじっとしてはいられず、懲りるということがない。当初、700ドルなど高嶺の花と読み、ショート(カラ売り)に走ったのが、あっさり700ドル突破で慌ててショートカバー(買戻し)に動く。さらにロング(買い持ち)へ転じる。

このように書いてくるとプロの動きが(結果論では)愚かしくみえるが、その立場を12年間経験した筆者には、彼らが感じる切迫したプレッシャーもよく分かる。決算期までには何とか数字を作らねばならぬ。その視界はせいぜい24時間から48時間後まで。1週間後などという"長期?"のトレンドなど考える余裕もない。筆者もショートポジションをかかえれば、外電で強気材料が流れるとドキッとしたし、そこでメディアの取材など入れば、ここぞとばかりに弱気論をぶったりしたものだ。

ヘッジファンドに話を戻すと、今回最も打撃を受けたのがコンピュータープログラムによる売買が売り物のクオンツ系である。ソフトウエアの想定外の状況が示現し、顧客からの解約請求が殺到するや、手持ち資産処分売りに走るか、解約凍結を宣言するしかなかった。処分売りといってもCDO(債務担保証券)などのストラクチャーもの(仕組み商品)は、マーケットの信用収縮で買い手がつかない。そこで、流動性のある金がまず売られたのは当然といえば当然か。

決算期の多い11月まで、未だ5つや6つのヘッジファンドのblowup(破綻)があるよ、とはファンドの大口顧客の話である。その過程では金が再び短期的に売り込まれる局面もあろうと見ている。

前回も述べたが730ドルは需給ファンダメンタルズから乖離(かいり)した水準という意味でバブルであろう。仮に現水準(727ドル)から750ドルへ更に投機的価格上昇が続くような展開となれば、そのバブルの調整は長引くことになる。逆に700ドル或いはそれを割り込むような調整が入れば、年末までに高値再更新の確率は高まると見る。

未だ9月末。年末まで3ヶ月もある。いまのマーケットの90日間は長いよ。その間、2-3回の短期的乱高下があっても全く驚かない。そこで決算期に迫られたプロがパニックになるときこそ、個人投資家の出番であろう。

2007年