豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. リスクの連鎖 パート2
Page378

リスクの連鎖 パート2

2007年11月20日

8月17日付け本欄"リスクの連鎖"で書いた現象が3ヶ月経って再現されつつある。

8月は夏休み中だったが、今回は感謝祭で休暇気分の週。昨晩のNY株は今月に入って3回目のダウ200ドル以上の急落。昨晩の株安は格下げされたシティーなどの金融株はもちろん、ヒューレットパッカーとかファイザーなどにも波及。決算期を控えたヘッジファンドの株ポジションも相当毀損したと思われる。

マーケットではお馴染み、投資家のリスク回避現象。米債券市場では質への逃避買いが10年物米国債に集中。利回りがなんと4%という異常な低水準まで急低下。(台所が火の車のUncle Sam=米国政府にカネを10年間もたった4%の金利で貸すかい? とはシカゴの債券先物フロアで聞かれたつぶやき。)

リスク回避となれば、これもお馴染み、円キャリー解消が(すでにずいぶん手仕舞われたとはいえ)、まだ続いている。円高が進行して110円割れも。ただし、基調はシカゴの円先物は買い越しに転じており、やや円高行き過ぎの警戒感も。さらに11月14日付け本欄で書いた下記の要因が効いてくる。

 "それに円高といっても、日米絶対的金利差はあまりにも開いており、ドルを借りて売る際の金利コストはディーラーにボディーブローのようにずっしり効く。4%の金利差を上回る為替差益を生み出すのは大変なハンディキャップレースなのだ"

トリはゴールド。これもお馴染み、ファンドの益出し売りで一時は773ドルまで売り込まれた。その後780ドルを回復しているが、引き続き戻り売りの様相。750ドルも視野に。

まさに"リスクの連鎖、再び"である。金に関して言えば、8月同様、急落も速いが、反騰も速そう。ヘッジファンドが売り込めば、年金、中国、インドの長期保有がすかさず安値を拾ってゆくだろう。国内では、ドル円が110円という魅力的水準にある。国内金価格は国際的に見て割安なのだ。

さて、昨日も触れた、中東OPEC発のドル離れ論争の顛末(てんまつ)。

イラン大統領の発言"あいつらは、俺達の油を得て、我々は今や紙っ切れにすぎない紙幣を得る。"

エクアドル大統領"このまま弱い通貨で取引すれば、同じ量のモノを買うのに、より多くの原油を売らねばならぬ"

代案は通貨バスケットで原油価格を設定すること。当然ドル比率は低まるから ドル売りが生じる。外為市場では、中東諸国保有外貨準備のドル離れシグナルと解釈される。

それでも、サウジは自国通貨のドルペッグが輸入インフレを悪化させているものの、ドルペッグは維持と強調。アンゴラ財務大臣曰く"なんのかんの言っても、OPEC経済はドルに深くリンクしているが現実なのだ。"サウジは巨額のドル保有者でもある。ドル安で最も損するのは同国だ。あのイランだって、建前は原油決済をユーロにシフトとのことだが、実際にはドルによる支払いを受けている。嫌米感情という政治的要因と原油収入最大化という経済的要因の狭間で、中東発のドル離れは揺れ動いているのだ。

2007年