豊島逸夫の手帖

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南ア電力危機

2008年1月28日

25日の欧米貴金属市場は、南アの電力危機による供給不安の話題でもちきり。とくに生産の8割が南アに依存するプラチナが急騰。金は南アが生産一位の座を中国に奪われたことでも明らかなように、世界の中の生産シェアーもいまや18%ほど。それでも史上最高値を更新した。

この問題の根は深い。結論から言うと、発展途上国にありがちな、経済成長にインフラ整備がついてゆけない例なのだ。同国政府系電力会社のエスコム社は、すでに1月に入った時点で一回2時間の計画停電を実施していた。発電所の供給能力増強が一向に進んでいないのだ。そこに大雨で、(火力発電に頼る)発電所の石炭がビショビショ。乾燥に2-4週間かかるという。そこで、ついに国内大手138社に緊急電力消費停止(最低限のメインテナンスは除く)を発動した。

2015年まで電力供給の本格的増加は見込めず、事態は長期化の様相だ。政府は国家的危機を宣言。経済成長の失速も危ぶまれ、2007年の経済成長率も5%以下に低下との見方も浮上。2010年のワールドカップ開催も大丈夫かね...。しかし、まぁ、出るときは次から次へ想定外の要因が出るもんだね。

想定外といえば、プロの間の話題はソシエテジェネラルのトレーダー(ジェローム ケルビエル 31歳)による8000億円相当の巨額損失発覚。株価指数先物取引ということだが、"どこをどうして、そんなに損が出せるのか"とプロでさえ頭ひねる。ただ、世界のデリバティブ市場の想定元本が4京9千兆円という時代だから8000億円といっても かわいい数字なのかも。なんか、数字の感覚が麻痺してくるのが怖い。

筆者が一番気になったことは、行内のリスク管理の甘さ。このトレーダーはバックオフィス(管理部門)の庶務係から身を起こしたとのことで、コンピューター管理には精通していた。そこで損失の隠ぺい工作にも長けていたらしい。ただでさえ、サブプライムでヒィヒィいっているところに この不祥事で同行はM&Aの格好の標的になることは間違いない。フランス当局は、市場の心理的ショックを緩和するための談話発表に躍起だ。"No Problem"と言われてもねぇ、空しい...。

なお、この1件が実は先週月曜日の(米国市場休場の日)に欧州株が急落した原因と、FT(フィナンシャルタイムズ)は報じている。つまり、火曜日の0.75%FRB緊急利下げの引き金を引いたわけだ。一トレーダーがFRBを動かしたとあっては、バーナンキさんもメンツ丸つぶれだね。ただでさえ、FRBは市場の動揺に対し、パニック的な対応をしたとの批判も出てきた矢先ゆえ。
さらに、大銀行といえど、サブプライム関連仕組み商品の時価を把握していなかった(できなかった)ことも合わせ、リスク管理の問題がさらに問われそう。金市場から見れば、信用の裏付けに成り立つペーパー商品の脆さが質への逃避で実物資産=金に流れるという状況を加速させる事態である。

さて、今週は、30日のFOMCと2月1日の米国雇用統計を控え、またもや乱気流に備え、シートベルトを低くしっかり締めねばならぬ週だ。とくに金利に敏感な金市場は、追加利下げが0.25%に留まると失望売りの可能性もある。逆に0.50%となると、さらに高値追いのきっかけになろう。

昨日のWGC大阪セミナーは、府知事選挙と国際女子マラソンにバッティングしたのに8割の入りで、会場内はエアコンの関係で寒かったけど、聴衆の視線は熱かった。東京会場で立ち見まで出したことを反省し、今回は控え目に受講受付を抑えたら、結果的には2割の空席が。(選挙とマラソンを織り込めず)なんとも読めない。金価格予想より難しいのだ(笑)。東京も大阪も半分以上がこのブログを読んでいる方々で、筆者も素直に嬉しかったです。正直、仕事量の急増でアップアップなのだけれど、やっぱり書き続けようという気になりました。

なお、東京で大量の抽選漏れを出したので、お約束の第二弾(アンコールセミナー)を2月11日に有楽町の国際フォーラムにて開催決定しました。今日の夜までには日経マネーディジタルにて先行発表。明後日30日(水)の日経朝刊にて一般告知します。前回抽選漏れの方々はその旨を書きこんでいただけば優先的にご招待します。あくまで個人、機関投資家向けのセミナーゆえ、業界関係者は毎回お断りしています。あしからず。

2008年