豊島逸夫の手帖

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SWFの姿勢に変化の兆し

2008年2月12日

昨日のNY株式市場も、午前中は保険大手AIGの5000億円相当の追加損失計上のニュースに揺れた。会計監査法人の精査で、当初予定額を大幅に上回ったとのこと。AIGよ、おまえもか、という市場の落胆。

それにつけても、いまや、欧米大手金融機関はアジア中東の政府系ファンド(SWF)からの資本注入頼みの様相。米議会はSWFの政治的見地から警戒感を露わにするが、所詮Beggars cannot choose(物乞いする方は相手を選べず)。
だが、物乞いに対して、施す側は相手を選べる。というわけで、ここにきてSWFサイドにも慎重に資本注入先を選別する動きが出てきた。底なし沼の様相を呈するNY金融株の惨状にさすがに"こんな銀行に投資して大丈夫かい"という警戒感が生じているのだ。

例えば、中国の政府系ファンドCICは、そのデビューから大きく躓いた。昨年株式公開したブラックストーンへ鳴り物入りで派手に投資したものの、IPO後、同社株価は4割も下落。その惨憺たる結果に中国国内では声高な非難に晒されている。そこで、今度は非公開株(private equity)とのタイアップを目論み、JCフラワーズと共同で4000億円ほどを病める欧米金融機関に間接投入することで合意した。このやり方なら、米議会との政治的摩擦も回避できるし秘密性も保てる、との読みもあろう。

クリス フラワーズ氏は、旧長銀を買収したリップルウッドにも裏で関わり、最近では、新生銀行の株を大量に取得。1000億円相当を儲けたとされる人物だ。

さて、AIGのニュースで 金融市場のさらなる信用収縮も懸念される。でも、市場の流動性とは水のようなもの。2月の寒さのように冷えれば凍りついてしまう。でも、凍った水もいつかは融ける。蒸発したわけではない。蒸発したかのようなパニック的論調には冷静に対処したいもの。

中国関連で筆者の目を引いたニュースは、世銀の中国経済成長予測。2007年の11.4%から2008年は9.6%へ。リカちゃん効果で2%ほど減速との見立てである。

インドも同9.6%から8.7%へスローダウンと、インド政府統計当局が発表。モルガンスタンレーなどは、2009年7.4%、2010年7.8%とさらなる減速を見込んでいる。

それでも、コモディティー(商品)セクターはめげないようだ。小麦、コーン、大豆などの穀物、プラチナ、銀などの貴金属が軒並み高い。リカちゃん効果で米国経済減速に新興大国が"連動"しても、経済成長の絶対値は依然8-9%。先進国から見れば、羨ましい高度成長である。

筆者の好んで使う譬えだが、高速道路を160キロでぶっとばしてきたポルシェが一般道路に入り、80キロに減速すると、あたかも止まったかのような錯覚に陥る。2%減速する経済の中で生活している人たちも同じような錯覚を感じると思う。セクターによってはバブル破たんもあろう。しかし、スピードメーターは80キロを差している。8%の経済成長は維持可能な巡航速度への移行の過程とも読める。

従って、新興大国のインフラ作りに不可欠な素材の価格は高止まりという図式になる。そこへ、膨張するマネーが価格上昇を増幅させる構造も絡む。ただし、米国のくしゃみがインフルエンザに進行すると、中国は肺炎となりかねないから、まだ予断許さず。

目先を米国に転じれば、民主党オバマ候補のmomentum(勢い)が凄いね。黒人はもちろん、教育水準の高い白人、そしてウオール街の評判もよろしい。筆者の友人たちは全員オバマ支持。対するヒラリーは、白人低所得者層、ヒスパニックそして女性票と、これも固い支持基盤を持つ。

そして、民主党と共和党の経済政策案を比較すれば、増税、社会福祉優先のばらまき財政、規制強化の民主党に対し、減税、財政カット、規制緩和の共和党。とくに、ウオール街はブッシュの配当、キャピタルゲイン減税措置の撤廃を最も怖れる。これが実施されたら、カウントエイトでフラフラ立ち上がり、なんとかファイティングポーズ作ったNY株には、ずっしりボディーブローのように効くは必至。

金関連では、東京G7でイタリア経済相がIMF保有金売却合意との発言をロイターがすっぱ抜いた。が、市場は無視。またかと、オオカミ少年扱いである。
(過去数回、同様の案が浮上したことがあるが、いずれも米国の反対で否決されてきたという経緯があり、今回も同様だろうと市場は見ているということ)。

最後に、昨日は有楽町国際フォーラムでアンコールセミナーを実施。前回抽選に漏れた方々、リピーターの方々、初参加の方々とさまざま。女性の参加も目立ちました。そして、参加者の6割がこのブログを読んでいてくださって、励みになりました。これからも色々な見方を積極的に紹介してゆくつもりです。

2008年