豊島逸夫の手帖

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金1000ドル これからどうなる パート2

2008年3月14日

3月4日本欄"金1000ドル目前 これからどうなる"の続編。このような大台突破のときこそ、大きな流れを改めて展望したいもの。そこで、初心者の方には、本欄アーカイブ2005年12月2日付け"初心者向け 金が今なぜ上がっているか 保存版"を読んでいただきたい。

そこに書かれている上昇要因が、2年経った今でも、ほとんど変わっていないことに驚かれると思う。要は市場の構造を大きく変えるような要因は一過性ではないのだ。

とくに実質金利低下について補足しておこう。現在、米国消費者物価上昇率は年率4%前後。コア指数で見れば2.5%。対して、短期金利は3%。来週のFOMCでは2.25-2.5%の水準まで下がりそうである。そうなると実質金利は完全にマイナス。要は銀行預金しても目減りする状況なのだ。かといってNY株もugly(惨憺たる状況)。債券市場はサブプライムの信用不安が支配。ドルを持っていれば目減りするばかり。だからといって、キャッシュ(現金)で持てばよいかといえば、原油110ドルでインフレ懸念=これも目減りの恐れあり。ここまで書けば金にマネーが流れないほうがおかしい、ということになろう。

とはいえ、1000ドルという高水準で買ってよいものか。実需(宝飾)は高値による買い控えが顕著。それでも筆者が"まだ相場は野球で言えば6回表"と論じるのは、年金マネー参入といってもまだ始まったばかり。これから、2月29日付け本欄で書いたように、カルパースなどの主流の年金基金が参入してくる。(ちなみに筆者のボス=WGCのCEOジェームス バートンはカルパースのCEOを9年間勤め、年金の表裏を知りつくした男である。)

中国マネー参入といっても、先月、ようやく上海金先物市場がオープンしたばかり。民間四大商業銀行は昨年"金解禁"になったばかり。兆ドル単位の資金を分散運用してくる政府系ファンドも、これから商品分野に参入必至。原油価格が上がれば上がるほど、オイルマネーは膨張し、運用多様化を迫られる。

対して、金生産は、これまでダントツ一位の座に君臨してきた南アがじり貧。ついに中国に追い抜かれた。世界の金生産量は、今後も増える見通しはたたない。ただし、金は腐食せず残るから、リサイクルによる環流は増加する。投資家の利益確定売りも増える。さらに、欧州の中央銀行の金売却も年間500トンのペースで着々進む。つまり、これら二次的供給源が価格上昇にブレーキをかける。

そして、ヘッジファンドの換金売り、決算対策売りも必至。昨晩のNYでは、本欄今週月曜日に述べたカーライル傘下のファンドがいよいよ破たんの報道が流れた。金は流動性が高いから、損失補てんとなると真っ先に売られる。

従って、短期的な乱高下は今後も続くことは覚悟せねばならぬ。けれども2005年12月2日に述べた構造的変化のトレンドは変わらない。

最後に気になる円高の行方。海外ドル建て金価格が変わらなければ、国内円建て金価格は円高の分だけ下がる。とはいえ、仮に80円、90円などの円高ともなれば、NY市場では"ドル暴落"を意味する。(円高のスピードを遙かに上回るペースでNY金が急騰するのは見えている。そもそも、それほどのドル暴落が起こったら、いったい世界の誰が米国の赤字の面倒を見るのか=米国債を買うのか。G7が国際経済不均衡の破たんを容認するのか。)

最後に、年初、日経紙面で2008年相場見通しとして780-1000ドルとしたが、880-1150ドルと上方修正せねばならぬ。5回裏のグラウンド整備が終わったところで、ゲームは後半戦に突入。中継ぎ投手が打ち込まれる局面もあろうが、自慢の打撃陣が追加点を重ねる展開か。

2008年