豊島逸夫の手帖

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シカゴ近郊農家のキャデラック

2008年4月1日

昨晩のNYの話題は、もっぱらポールセン財務長官が発表した包括的改革案の是非についての議論。詳細は日経朝刊に載っているが、ポイントは、
―住宅金融委員会を創設し、住宅金融会社を許可制にする。
―複数の銀行関連監督機関を統合し、州単位の保険行政に連邦も介入するべく新たな監督機関を創設。
―SEC(証券取引委員会)とCFTC(商品部門の監督機関)の統合。
―そしてFRBの投資銀行に対する監督機能強化など権限拡充。

かなり思い切った改革案であり、当然、統合される側からはハンターイの大合唱。CFTCの親分も米CNBCに生出演し、"サブプライムに関係ない我が機関まで統合されるのは、健全な部位に手術のメスを入れるようなもの。事前相談もなく納得できない"とプンプン。総じて、時間はかかるが、方向性は正しいと思う。なにせ、21世紀のマーケットを取り仕切る体制が1930年大恐慌時に作られた産物なのだから。

次に、米農務省が発表した、今年の農家作付状況のレポート。3月初旬時点で86,000の農家対象に実施された調査の結果である。大豆が高価格を反映して前年18%増(アイオア、ネブラスカ州)。小麦も6%増。対して、トウモロコシ8%減(アイオワ、インディアナ、ミネソタ州)。これは昨年のエタノールブームの反動か。綿花13%減(テキサス州)。ちなみに、過去一年の価格上昇率は小麦132%、大豆76%、トウモロコシ47%、綿花58%。

大豆は、これだけ作付面積が増加しても、世界の在庫は非常な低水準で、気候異変などのサプライショックに敏感に反応する市場体質は変わらないという。トウモロコシは3年続きの連作による土壌疲労を嫌う農家の反応というが、それでも世界の在庫は低水準。小麦は世界的に生産復活の兆しもあり要注意とのこと。毎年8000万人増える世界の人口を満たすために穀物の需要量が長期的に増加基調ではあるが、年ごとの価格変動は、農家の作付判断とか気候などの変数で乱高下するのだね。それにしても、米国の農家は、高騰するシカゴの穀物先物価格とにらめっこしながら、どれを選択するか(日本の農家から見れば)贅沢な悩みを抱えているようだ。彼らの決断が、いずれ日本の家計を直撃するのだね。シカゴ近郊のトウモロコシ農家の納屋に(妻へのプレゼントとして購入された)高級車が鎮座ましますテレビ映像が印象的であった。

なお、穀物で、今年に入り突如急騰し最大の値上がり幅を記録しているのがrice=米である。2008年1月から107%の急上昇。アジアの米生産国が産業化優先で農業の灌漑、調査活動などを怠ってきたツケが回ってきたようだ。世界の米備蓄在庫は1970年代以来の低水準。なにせ25億人のアジア人の主食ゆえ、これは政治的問題化している。最大消費国フィリピンの政府は、同国上位一般企業100社に米作を義務付ける案を検討中とか。米輸出国のタイは、稲作地域のパトロールを組織的に強化するとか。

フィリピンはベトナム(米輸出国)と米供給協定を締結するも形骸化。米の価格は長年低迷してきたために、フィリピンもインドネシアも国内農家保護のため輸入関税を課してきたが、いまや数で上回る米消費者の保護が優先となった。
根本的対策は、米の交配による高品位種子の開発。このような米作の生産性向上で2億人のアジア人を飢餓から救えるという。

そして、原油価格が昨晩は101ドルへ急落。ゴールドマンサックスは、ファンドの売り手仕舞いで90ドル前半へ下落予想。原油需要は2004年以来の低水準。Next few months=今後数か月は、この状況が続くとの見立て。

金も910ドル台へ急落。引き続き商品市場全体に調整色強し。

外為市場では、ユーロ圏の消費者物価上昇率が3.5%まで急上昇という話題。これで、インフレ予防重視のECBによる利下げはますます遠のく。昨晩は"あや戻し"でユーロが売られる局面もあったが、総じてドル売りを示唆する市場環境が続く。

最後に、人民元の上昇が目立つ。今年に入ってから年率で20%近い上昇率だ。これは、明日のポールセン長官の北京訪問を控えた中国側の経済外交的配慮ではなく、中国国内のインフレ率8.7%に対応せざるを得なかった結果である。このまま人民元の上昇が容認されれば、国際経済不均衡が為替メカニズムにより調整されるのだが、人民元高の国内景気減速効果にどこまで大本営が耐えられるか。下落を続ける中国株の今後に大きな影響を及ぼすは必至。

2008年