豊島逸夫の手帖

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元UBS幹部の告白

2008年7月8日

"私は顧客の脱税行為を幇助(ほうじょ)することで、雇われた銀行から多額の給料を貰うシステムの中にいた"。

元UBS富裕層部門幹部バーケンフェルド容疑者(43歳)がフロリダの裁判所に提出した7ページにわたる自白書の一部である。そこには彼が米国人顧客に現金、貴重品などをスイスの銀行の貸金庫に預けることを幇助したこと、宝石、美術品などをスイスのクレジットカードで購入すれば米税務当局の捕捉を免れること、そして、一例として、顧客が米国外で購入したダイヤモンドを歯磨きチューブに入れて米国内に持ち込むための手伝いをしたことまで告白されている。

今後の捜査進展の過程で彼が知っていることを全て喋るであろうと米国のメディアは騒いでいる。UBSは米司法当局に二万人の米国人富裕層顧客名を提出するであろうとも報じられている。

本欄4月22日付けに書いた"スイスメガバンクの凋落"のような状況の中で起こった事件だけに衝撃は大きい。富裕層業務は同行の稼ぎ頭。投資銀行のノウハウで開発された新型金融商品を世界中の富裕層に売り込み、その富裕層から預かった巨額の資産を投資銀行部門が運用することで投資銀行業務も稼ぐ、というこれまでのビジネスモデルが、これで崩れてしまう。

今週号のロンドンエコノミスト誌は、2ページにわたってUBSの窮状を報じている。その挿絵は、スイスアルプスから雪崩のように転げ落ちる雪の塊。その表面にUBSのロゴマークが見える。ただ、同行は余りに巨大化しているので、買収する相手も出てこない。リーマンのケースのような買収の噂が出ようがない。結局、縮小均衡かというのが同誌の見立て。

おりしも日曜のNHKで男子プロゴルフ選手権の中継をしていたが、ティーグラウンドにはスポンサーUBSの大きなロゴが映し出された。スイス銀行の外国為替貴金属部で育った人間として、複雑な思いが走る。

さて、足元の金価格は結局950ドルには届かず、ドルが反騰すれば915ドルまで急落。その後920-930ドルのレンジに戻している。インドの6月金輸入は前年比6割減。アジアでは売り戻しが続く一方で、NY金ETF残高は813トンへ急増。先物も新規買い増加基調。新興国の売りに先進国の買いで拮抗の構図。宝飾需要が買い控えモードに対し、株安で分散してきたマネーが金へ流入の拮抗の構図とも言える。

2008年