豊島逸夫の手帖

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原油、プラチナ急落、金急騰

2008年7月16日

商品市場の価格上昇が二分化してきた。昨晩は、原油、プラチナの"純粋コモディティー系"では、バーナンキ議会証言が米経済の現状をかなり危機的に表現したことから、商品需要減を見込んだ売り手仕舞いが殺到。対して、コモディティーに加えマネーの側面も持つ"二面性"の金は、金融不安から生じる質への逃避マネーの受け皿として浮上し、価格は980ドル台まで急騰。原油は一時10ドル以上下がった後、結局7ドルの大幅安で引けた。プラチナは40ドル以上下げ、ふたたび2000ドル割れ。金はNYに入り980ドルを突破。同後場にかけては 970ドル前後まで急落した後、975ドル前後で推移している。

昨晩も色々な材料が出た。

NY株も急落、急騰、急落を繰り返し、ついにダウ平均は11,000ドルを割って引けた。一時急騰したのは、SECが住宅金融公社2社に対する空売り規制の方針を表明したこと。背景には、ベアスタもリーマンもファニーもフレディーも皆、投機的空売り(プットオプションも含む)にやられているとの認識の強まりがある。そこで、SECは、貸し株行為を伴わない、ただの帳簿上の空売りであるnaked short sellingを30日間停止する措置導入を表明。(現状では、詐欺的行為が認められなければOKである)。でも、結局、株価が下がっているのはファンダメンタルズが悪いからとの認識が勝り、NY株は下げて引けた。小手先の手法では、もはや収拾がつかない。

米地銀インディーマックの破たんが、ついに同行支店の取り付け騒ぎに発展。経済紙の一面に引き出しを求める預金者の列の写真がデカデカと掲載された。マーケットでは、200近い地銀に破たんの危険性、などという憶測報道が流れ飛ぶ。

VIX(ボラティリティー価格変動性のインデックスで、別名"市場不安指数")も、今年3月の高水準に近づく。このグラフと金価格の推移を比べると、かなり相関が強いね。

GMが20%従業員削減を含む追加リストラ発表。

バーナンキ証言もdownside risk=下振リスクの言葉が目立ち、かなり景気に対し悲観的なトーンになってきた。

原油は、世界経済成長の暗雲のシナリオが浮上したことで、一気に大玉の手仕舞いりが殺到した。ディカプリングからリカプリングへ、流れが変化している。これは商品安にも繋がる要因。

そして外為市場では、ドルが対ユーロで1.60の大台突破(つまりユーロ高、ドル安)。その後1.59まで戻したが。

以上まとめると、金融不安悪化、ドル安加速の中で、実物資産(信用リスクとインフレリスクのヘッジ)且つドル代替資産としての金が買われ、商品市場には暗雲が漂い始めているものの、金だけは独自の道を行く、という展開になってきた。

金は、金融市場の"かけこみ寺"である。かけこみ寺の尼さんは、時代の流れに敏感と言う。駆け込んでくる女性は、様々な現代の悩みを抱えているからだ。たしかに、金市場に身を置くと、毎度のことながら、周辺市場が不安に包まれるや、にわかに騒がしくなってくる。金市場に駆け込んでくるマネーの悩みも実に多岐に亘る。

金市場については、本欄で述べてきた"新興国売り 対 NY買い"の構図が変わらず。リカップリングとなれば、米国経済がくしゃみして新興国は風邪ひくわけだから、彼らが金を売るのも、もっともである。対して、金融不安真っただ中のNY市場では金が買われる。

目先の動きは、950ドルを抜くのは難しいと思っていたが、あっさり抜けたので、年末までにはと思っていた再上昇も早まった感じ。こうなると、ますます米利下げ、利下げ。次の一手はどう出るか。この点が、足元の上昇が持続するか否かの分岐点になろう。筆者の中長期的見方は変わらず。

思えば、昨年の夏にサブプライムが悪化してから、はや一年。昨年も夏休みから呼び戻された欧米市場関係者が多かったが、今年も筆者の友人たちは"夏休み返上"も覚悟とのこと。"リゾートの海岸で日光浴しながら、ブラックベリー(携帯PC)で30分ごとに相場やメールをチェックしていては、休んだ気にもなれん"だと。"いつクビになるか戦々恐々なので、デクスを離れられない"というのもいた。でも、彼らの給与水準の実態を知っているから、あまり同情しないけどね。十分なストレス手当が入っているのだから。

2008年