豊島逸夫の手帖

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ドル、円、ユーロ弱いもの比べの三つ巴

2008年8月11日

円とドルの弱いもの比べの中で、ユーロが漁夫の利を得ていたマーケットの様相が変わってきた。今度は、ドル、円にユーロも弱いもの比べに加わり三つ巴のレースである。すべては、リカプリング(景気減速の連動)に尽きる。

米経済のサブプライム不況が欧州にも伝播してきた。そうなると、いかに強硬なインフレファイターのECBといえども、そう簡単には利上げできない。EU経済も芳しくない指標が続出。そこでユーロが売られ、先週1週間で3.3%もの急落。1.50の大台も割ってきた。

別に米経済が好転したからドルが買われているわけではない。ユーロがこけてドルが浮上しただけの話。でも、これまでのユーロ買い、ドル売りの投機的ポジションは一斉に巻き戻されるから変動幅は拡大される。長期的ドル凋落傾向の中での、ベアーマーケットラリー(長期下落トレンドの中での反騰局面)と見るべきだろう。

今のドル高の転換点は、マーケットの大半がドル高やむなしという方向で一致したときだろう。95円の円高の時を思い出してほしい。あのときはマーケットの大半が円高ドル安やむなしという方向で一致していたよね。

そして、原油安も金安もリカプリングが原因。需要減が新興国にも波及する(連動する)というシナリオで売られている。中国の経済政策は、一早くインフレ重視から成長重視(=雇用確保=社会不安対策)に軸足を移してきたが、物価上昇も中国庶民の社会不安の原因になっているしね。どこまで腰据えて景気浮揚対策を打てるか...。

それにしても世界経済は、どうも、いけない方向に向かっている。ドーハラウンドの決裂は自由貿易との決別に等しい。後に待つのは保護主義への傾斜である。そうなると世界経済は縮小均衡に向かう。各国が、それぞれ、ちんまりと殻に閉じこもってしまうシナリオ。

さらに各地域がお互いをアテにしている。米国はアジアにインフレ対策としての引き締めと、アジア通貨切り上げを求める。アジアは、元はと言えば米国の金融不安が蒔いた種だから、米国になんとかしてもらわないと、と言う。そして中東は原油高というタナボタで潤っているが、その原油高が世界景気後退の引き金を引くようなことがあれば、結局原油急落を招く。ここは米国とアジアに踏ん張ってもらわないと困る。お互い譲らず、最後は近隣窮乏化政策となりがちな状況だ。自国通貨だけは安く留めておいて輸出は確保する。人を踏み台に自分だけは生き残ろう、という意図がミエミエなのだ。

さてさて、金価格は ついに来ました850ドル台!夏枯れで実需が薄いときにファンドの手仕舞い売りが殺到している。ドル高、原油安と売る材料は揃っている。足元は売り優勢だが、セリング(売り)クライマックスの兆しが見える。(兆しと感じるのは、ユーロが1週間で3.3%も急落というような現象)。
アンダーシュートとも言えようか。

株式売り、商品買いのポジションの一斉巻き戻しと講釈されるが、巻き戻されたポジションが、早晩ふたたび巻き直されることもマーケットの定め。株式とて、上述のマクロ経済見るに、腰の入った新規買いというよりショートカバーラリー(空売り規制を嫌った空売りの買い戻し)の色彩が強い。ファンドはキャッシュポジションを増やして"雨宿り"モードだが、通り雨降る軒下にいつまでも長居は出来ぬ。小降りになれば、即、マーケットに出張らねばならぬ。なんせ、それが商売なのだから。

最近はマーケットのセンチメントが24時間で急変するから、今の流れが変わるのも意外に早いと思うよ。

2008年