豊島逸夫の手帖

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再度プレーボール!

2008年10月2日

9月29日付け本欄で、"公的救済ゲーム開始 プレーボール"と書いたが、その直後、観衆がゲームチケットの値段が高すぎると騒ぎだし、一時中断。さぁ、これから再度プレーボールとなる、はず。本稿執筆時点ではの話だが...。

そこで問題は、チケットの値段設定である。本欄でも再三指摘してきたが、時価評価か否かの問題。読者から、"よく分からん"との声あり。出来るだけ分りやすく説明を試みてみよう。

まず、現状。貴方が住宅ローンを組んでいるとして、その担保となっている不動産価格は下落したが、公示地価額は出ている。購入時は1000万だったが、最近の公示地価では600万。

この住宅ローンを組成した銀行は、貴方へのローン債権をすでに証券化してマーケットで売り払っている。それを買い取ったのは、投資銀行。買い取りの資金源は、普通の預金者の定期預金ではなく、プロの短期資金調達市場から借り入れているのが実態だ。その返済期限は迫っているが、借入の継続が出来ない。疑心暗鬼の貸し手が引っ込んでしまったからだ。そこで、くだんの債券を、お上が買い取ってくれることになった。幾らで?

ここからは、その投資銀行の立場になって考えてみよう。非常に単純化した例にするが、貴方のローンだけが証券化された債券を買い取った場合を想定してみる。

最新の地価公示価格では担保の不動産価値は600万円なので、それを証券化した債券の価値は満期まで持ち切れば、帳簿上の価値だが600万円くらいは期待できるかな、というところ。もちろん公示地価が今後さらに下落する可能性もあるけどね。

しかし、満期まで待てない。今、売却しないと短期借入資金が返済できない。そうなると時価でどの程度の値段がつくか。時価算定といっても、仕組みも複雑な商品で、しかも、なんせ買い手もいないことで"理論的"にフェアー=公平と思われる時価になるのだが、この種のローン証券化商品の他の例を参考に、まぁ、300万円程度かな、と査定される。

ここが、日本の不良債権問題の時と根本的に異なるところ。日本の例では、あくまで不動産の時価が問題だったのだが、米国の今の例は、それを証券化した債券の時価が問題なのだ。

さぁ、そこでお上はどっちの方法で買い取ってくれるの?持ち切りベースだとありがたい。元本割れとはいえ、なんとか凌げる。でも、そんな甘い査定では、納税者が納得しない。でも、時価ベースでは、またまた追加損失計上しなければならない。金融不安がさらに悪化し、そもそも"救済"してもらったことにはならない。

そこで、再三本欄で書いてきたように、"時価会計"を撤廃せよ、との議論が噴出してきた。これは、サッカーのゲーム中にゴールポストの位置を突然変えるようなもので、今の会計制度の根本に関わる大問題である。

アメリカという国はルールを自分で決めて、後で勝手に自分の都合で変える国とは思っていたが、今回もそれを痛感。1971年に、ニクソンがいきなりドルと金の交換を停止した、ゴールポストの変更が歴史的には最も有名だけどね。

どちらに転んでも、今後は米国ウオール街流のビジネスモデルが大きく変わる。
一言でいえば、よりスリムに贅肉を削ぎ落し(レバレッジかけずに)、商いの規模もダイエットして縮小し、お上の介入、監督も甘んじてお受けする、というものである。

縮小均衡だね。ヘッジファンド業界も大幅縮小する。Back to basic=基本に戻る と言ってもよいトレンドだ。

金の業界でも、今回のLBMAの京都会議では "金地金"保有という最も"原始的"手法が改めて見直され、HSBCなど世界の金地金を集中保管する業務を営むロンドン市場の銀行は、残業に次ぐ残業で大忙しという話が聞かれ、それがフィナンシャルタイムズの記事にもなっていた。その顧客の多くが世界の富裕層という。

Back to simplicity=単純なものへの回帰現象とは以前も書いたことだが、その流れはますます加速している。

2008年