豊島逸夫の手帖

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ラストリゾートはネズミ小僧?

2008年10月3日

金は830ドル台まで急落。来るべきものが来た。まず、9月30日京都発で書いたこと。

(以下、引用)
ヘッジファンドはレバレッジを収縮するから(ディレバレッジ)、当然これまでのような高パフォーマンスは望むべくもなく、解約が殺到する。ここが、かなりのショックをマーケットに及ぼすことになる。
そこで金もヘッジファンドの換金売りに見舞われる可能性もあり、ここはあまり調子に乗らないほうがよろしい。
(引用終わり)

流動性が枯渇して、短期資金市場も凍結状態のところに解約が殺到しているヘッジファンドは、今売れるものは何でも売ってキャッシュポジションを増やしている。問題はパフォーマンスが良いファンドも、疑心暗鬼になった顧客の解約に見舞われている。ヘッジファンド業界全体のパフォーマンスは9月もますます悪化し、20年ぶりの惨憺たる結果とか。

次に10月1日に"EU圏 津波警戒警報発令"と書いたが、その津波第一波が早くも襲ってきたようだ。ECBの利下げ示唆発言もあり、ユーロ安が加速。
津波が来るぞー、というので、ユーロ買い持ちの投資家たちが家財道具もそのままに、一斉に高台に避難を始めた。あの原稿にこう書いた。

(以下、引用)
米国はいち早く最大級の地震に見舞われ、いまや、その復興対策でおおわらわ という段階なのだが、対する欧州は、まだEU全体としての地震対策案さえまとまっていない。ここが、複数の国々の連合なのでアクションが遅いという弱みだ。
(引用終わり)

今日の日経朝刊9面(国際面)の、"欧州内 早くも温度差。金融危機対応であす会合"という記事を読むと、その実態が分かるよ。

外為市場では、その結果として、たいしたことない米ドルでも買われる"悪いドル高"に。ドルは対ユーロで1.38まで急騰。ユーロ円が145円まで下がった。

そして、金融危機が世界の実体経済を蝕み始めた。連日発表される経済統計が 悪化を裏付けている。今週の"トリ"が、今日発表の毎度お騒がせ米国雇用統計。原油も下がり、金も実需の冷え込みが懸念される。インフレ懸念どころか 一転、欧米ではデフレ懸念に。

ただし、新興国の需要は、所得効果はマイナスだが、価格効果は下がればプラスになる。つまり、景気後退で財布の紐が堅くなるのが負の所得効果。でも、価格が安くなるから値頃感で買いが増えるのが正の価格効果。800ドルに近づけば後者が下値を支える。

新興国は、They are not strong enough to save the world, but strong enough to save themselves. =世界経済を救うエンジンにはなれないけど、少なくとも自分たちを救うだけのパワーはある。これジョンリードが私との対談で言った一言。いいこと言うよ。

そして、VIX(価格変動性のインデックスでマーケットの不安係数)が45と異常に高い。金融危機収束には程遠い。マーケットが信用リスクに極めて過敏になっている。credit squeeze=信用収縮というより、credit freeze=信用凍結だね。

金融機関同士がお互いの信頼を喪失した状態ゆえ、CP(コマーシャルペーパーという無担保の約束手形みたいな有価証券を発行して、銀行は短期資金を、事業会社は在庫、運転資金など調達できる手段)が凍りつき、溺れそうな銀行、企業に、FRBが救命浮き輪を投げかけている。その浮き輪に皆が殺到しているので、discount windowというFRBの緊急資金投入窓口は長蛇の列。この1週間で前週比60%アップの4090億ドル(40兆円以上)という巨額の様々な(質は玉石混交だけど、今なら、あれこれ言わずに担保に認定してもらえる)手持ち債券がFRBに持ち込まれ、財務省証券と交換された。

マーケットは参加者相互の信頼により成り立つ。それがなくなると、アダムスミスの"見えざる手"=価格による調整機能が働かなくなる。これ、今我々が住んでいる自由主義経済の根源に関わる事態である。

今の金融市場は、頼れるものは現金しかない。カネを借りようと思ったらお上に泣きつくしかない。これでは江戸時代より遅れた経済システムだ。少なくとも、鬼平の時代には"越後屋さん"が居たものね。それでも米国には越後屋さんが居るよ。バフェット氏。GEにもポンと3000億円出資。(あいかわらず昨日もeconomic pearl harbor=経済の真珠湾攻撃という言葉を使っているけどね)。まぁ、日本の庶民の願いはネズミ小僧出現か、あるいは富くじか...。

今週号の英国エコノミストの表紙のイラストみて思わず苦笑いしてしまった。納税者負担の公的救済の急先鋒ポールセン財務長官が黒マントを着て、"I want YOUR money"=おまえたちのカネよこせ!

でもヘッジファンドの出資者とか欧米中堅銀行の預金者は I want MY money BACK!=カネ返せ!

いやはや困ったことになりましたよ、ホントに...。何回か触れたけど、協調利下げも、アリだね。

2008年