豊島逸夫の手帖

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円の独り勝ち

2008年10月23日

一年前と現在のマーケットを比較してみた。

  2007年10月24日 2008年10月22日
 ドル円 114.10 97.70
 ユーロドル 1.42 1.27
 ユーロ円 162.80 124.70
 NYダウ 13,675 8,519
 米国債(10年もの) 4.3% 3.5%
 原油 87.10 67.48
 金価格 757 724
 NY金先物買い残 627トン 332トン
 中国経済成長率 11.4% 9.0%

こうして改めて比較すると、同じマーケットの景色が一年でかくも変わるとは信じがたいほどだ。

一年前は円キャリー全盛期。円の先安観が強く、円を売って株や商品や新興国で運用する動きが支配的であった。それが、今や、株、商品、新興国関連を売り処分してドルや円のキャッシュに戻す(レパトリ)動きに転換。

ユーロは当時、先高感が強く、国際基軸通貨もドルからユーロへシフトとさえ言われた。それが今や、寄り合い所帯の限界が指摘され、ユーロ解体説さえ囁かれる。

一年前の原油はいよいよ100ドル時代近しと騒がれた。それが今や50ドルまでの急落もありうると語られる。

金の一年前は、FRBの追加利下げの真っ最中でドルは全面安の中、800ドルを目指して上昇中であった。しかし、800ドルの壁は相当厚いと思われていた。そして現在は金融危機の余波でヘッジファンドの保有資産処分売りの第二波が直撃し800ドル台から720ドル台まで急落中。NYの金先物買い残高が象徴的であるが、一年前は史上最高水準の600トン超。現在はその半分。

ただ、こうして各種投資媒体のパフォーマンスを比較してみると、金と米国債が相対的には変動性が低いというか、まだ安定しているほうだね。まぁ、金について言えば、750ドルというレンジの下値圏に収斂されていると言うべきか。950ドルがオーバーシュート(買われ過ぎ)とすれば、750ドル割れはアンダーシュート(売られ過ぎ)である。市場の値動きには慣性の法則が働くから、ブレーキかけてもすぐには止まらない。

足元では全てのマーケットからマネーが撤退している感がある。リスク回避と言ってしまえばみもふたもないが、世界同時不況になって世界がどうなるか想像するだけで投資家が委縮している。ヘッジファンドは解散清算モードで、嵐が過ぎるまで御籠りを決め込んでいる。

しかし、人間が"喉元過ぎれば熱さ忘れる"動物であることは歴史が証明している。金融危機というテーマがはや陳腐化し、世界同時不況に関心が移っていることも、その例であろう。とにかく"欲望"から逃れることが出来ない。

ちょっと買い過ぎたかなという反省が強まると、電子取引市場では反動が増幅され直ちに売り過ぎに転換する。でも、ほどなく、ちょっと売り過ぎたかなという反省が強まり、反動で再度転換する。NYの先物買い残高の変動が、その過程を雄弁に物語る。要はその短期サイクルを繰り返しつつ、需給均衡価格に収斂してゆくのだろう。金は早晩800ドルを回復すると思う。

円建ての金価格には円高のオマケまでつき、国際水準から見れば割安感がある。円の独り勝ちということは、日本人は金という国際商品を一番安く買える国民ということなのだ。

なお、プロの目で注目点は、コメックス12月限の大量現引きの可能性である。700ドル台で現物はとにかく世界的に品薄状態でプレミアムが付いている。そこで先物買い契約を現引きすれば、手っ取早く儲かる。とくに先物取引所の現物在庫など量的には知れたものだ。銀行預金の取り付け騒ぎならぬ、先物取引所での現物スクイ―ズが起こるかも...。

2008年