豊島逸夫の手帖

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大統領選挙?カンケーねぇ...。

2008年11月5日

今のマーケット全体の不安係数として、VIXとドル円がある。円高は市場の不安増大―リスクマネー撤退―円キャリーの巻き戻しと看做される。VIX(ボラティリティー指数)は、ピークの89から47まで戻った。それでも、つい最近までは30を超せば大騒ぎだったから、絶対水準は非常に高いけどね。まぁ、強い精神安定剤の投入で、急性発作症状はなんとか治まったという段階か。

そしてドル円は一時100円を回復。リスクマネーが活動を始めた兆しである。円金利も一段と下がったことで、円キャリーのコスト効率も良くなった。そろそろ円借りて、安くなったコモディティー分野で恐る恐るながらも運用してみようか、という兆しが見られる。

原油も70ドル前後まで反騰。金も760ドル以上へ急騰。NY金先物買い残高も、ピークの600トン以上から243トンまで減少したので、手仕舞い売り一巡感も感じられる。ユーロも対ドルで1.30台、対円で130円台前後まで反騰。

早朝の米経済チャンネルを見ていて感じたことだが、NY証取の引け前1時間くらい前からスルスルとダウが上げ始め、結局前日比305アップとなる過程で、金価格も750台からスルスルと765ドルまで上がった。明らかに連動している。NY株上昇―ヘッジファンド換金売り一巡―ヘッジファンドの金売りも一巡、という連想が働いている。

さて、北京からの帰りの機中でふと思ったことは、中国の景色とインドの景色は、かなり違うなということだ。何が違うか。中国には高速道路が年々各地に延び、空港も整備されつつある。トップダウンでインフラが着々と構築されてゆく。対して、インドはイギリス流民主主義の影響が強いので、議会の政治駆け引きで、インフラ整備へのコンセンサスがまとまらない。中国は都市部の整備は進み、地方部が遅れているので格差拡大中。インドは都市部も地方部も、とにかく道端に人が溢れて雑然としている。高層ビルなども少ない。

金融面を見ても、中国は経常黒字。外貨準備がどんどん貯まってゆく。インドは経常赤字。外貨準備がどんどん減ってゆく。外国からのホットマネー流入に依存する経済構造ゆえ、世界的に信用が収縮すると、アッという間におカネが出て行ってしまう。産業構造もハイテク関連に抜群の強みはあるが、重い産業が決定的に欠ける。BRICsを、一纏めにして論じることは出来ないなと感じた次第。

金の世界でもインドの金需要は、今年の秋の結婚シーズンに、いまいち盛り上がりに欠けた。対して、中国の金需要は前年比10%近い増加を続ける。インドの年間金需要は600トン前後で高原状態。中国は200トンから、最近は300トン台まで上昇して、2年後には400トン近くになりそう。独走していたトップランナーを2位の選手が急ピッチで追い上げる。金生産量で世界一になったから、次は金需要でも世界一の座を狙っているかのようだ。

さて、マクロ経済のポイントは金融政策(金利)から財政政策へ。今週号のロンドン エコノミスト誌も、社説で"The next front is fiscal"=次の戦線は財政出動へ、と論じている。金融政策はじわりと効く漢方薬。財政政策は即効性がある西洋医療である。ただし、効き目は長く続かない。

なお、フィナンシャルタイムズ紙は、米大統領選挙について、金融業界にとって投資マネーを刺激して引き出す絶好のチャンスと皮肉っていた。お抱えのストラテジストたちは、オバマ勝利ならこうなり、マッケイン逆転ならこうなるとか、歴史的に見て民主党勝利だとこうなる確率が高いとかなんとか、調査レポートで囃す。それがいったいマーケットにどれほどの影響があるのかと同紙は問う。大統領選挙がなくても、連日のように10%以上の値動きしているじゃないの。カンケーねえ、という論調であった。同感。ついでに言えば、メディアが普段は"米国の凋落"と書きたてているのに、大統領選挙になると大特集組んで、米国のトップが代われば世界が変わるみたいなノリになるのも無節操。

2008年