豊島逸夫の手帖

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米国債バブルのリスク

2008年12月10日

いよいよ米国もゼロ金利時代と言われてきたが、昨晩は超短期米国債(4週間もののTB)入札(約3兆円ほど)で、利回りがついに0.000%になるという異常事態。3カ月物では、マイナス利回りさえ生じたという。

これは、安全性を求めて殺到する投資家たちが、米国政府に手数料払ってでもおカネを預けたいという行動である。キャッシュを家に置いておけば盗難のリスクがある、ということだろうか。まぁ、実態は、年末を控えて、年越えで何があるか分からんから、機関投資家が有価証券ポートフォリオを米国債の形で保有して越年したいということなのだろうが。

それにしても、この米国債バブルは大きなリスクも抱えている。このバブルは下記のサイクルで発生している。

金融危機打開のための公的救済資金調達の必要性

大量の米国債発行

金融危機の中でリスク回避に動く投資家の米国債買い

このサイクルの中で、金融危機解決になりふり構わぬ米国政府と、リスク回避になりふり構わぬ投資家のニーズが一致したところで、利回りゼロという異常事態が発生したわけだ。

その背景には、インフレ懸念が後退し、デフレ懸念が台頭している、というマクロ経済状況がある。しかし、債券市場は、一般的にインフレリスクに敏感に反応する。そこで、今の債券バブルのリスクは、マーケットのセンチメントがなにかの拍子で、再びデフレからインフレへ振れた場合である。

その場合、債券市場には、本欄定期読者には御馴染の"劇場のシンドローム"が発生する。つまり、米国債を大量に抱えた投資家たちが"火事だ"という叫び声とともに、非常出口に一斉に殺到するわけだ。ドル金利は一斉に急騰することになる。一夜にして米国債保有者は巨額の含み損を抱える羽目になる。

"そんなこといったって、当面インフレの芽はないよ"という声も多かろう。しかし、半年前、資源高でインフレ懸念が市場を支配していたとき、誰が半年後にデフレへのセンチメント急転換を予想できただろうか。市場のムードは、かくも猫の目のごとく変わる。アナリストの"長期見通し"が3か月ごとに、ころころ変わっても当たり前になったご時世である。

とくに、ドル安リスクが債券市場にとっては最も要警戒シナリオであろう。巨額の米国債を保有する中国マネー、オイルマネー、ジャパンマネーが一斉に米国債保有のリバランスで一部売却に動いただけで、債券市場は暴落するであろう。しかも、ドル安は米国人投資家にとっては輸入インフレの可能性を意味するから、米国内の米国債保有者も債券売却に走ることになる。

そもそも、米国は債務国。借金を抱えた人間にとって、インフレは朗報だが、デフレが一番怖い、という話を、これまでにも繰り返してきたが、根本的に債務国はデフレを続けることが出来ない、という宿命があるのだ。

日本人個人投資家にとっても、このリスクは他人事ではない。年金とか投信には巨額の米国債が組み込まれているのだから。

安全性が高いとされる市場でも、昨晩のような異常な数字が出るときは注意が必要である。とくに、"国債なら安全"という神話を信じきっている個人投資家は、もう一度、債券のイロハを勉強されたほうがよろしい。

2008年