豊島逸夫の手帖

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いつまで続くか オバマのハネムーン

2009年1月15日

今や瀕死の米国経済は、緊急大手術の真っ只中。失業、小売り激減などの痛みを伴う症状は悪化するばかり。その様は、体中に色々なパイプを繋がれ、薬剤、栄養剤が投入され輸血が注入されつつ手術台に横たわる患者を連想させる。その"緊急資本注入"そして"緊急財政資金投入"の量もハンパではない。その最中に、担当主任教授が、ブッシュからオバマに"チェンジ"するわけだ。

オバマ医師の処置は、当然、緊急財政資金投入量をさらに増やし、まずは患者の延命を図ることだ。おそらく、その大型財政出動で、就任直後の今年前半はなんとか乗り切るであろう。

問題は、その後である。重篤な合併症の発症が待ち受けているからだ。オバマのチャレンジ(試練)は、彼の任期の最初の6か月は米国経済の救世主として持て囃されるであろうが、その後の3年半の任期は、合併症に悩まされ、熱狂的人気の反動としての国民の落胆と対峙せねばならぬ。その合併症とは、勿論、未曽有の財政赤字。

折悪しく、米国でも日本同様にベビーブーマー(団塊の世代)のリタイアが始まり、健康、介護、老後福祉などに巨額の費用を要する"金食い虫"世代が財政赤字の悪化に拍車を掛けるは必定。そして、巨額の財政赤字と金融危機打開のための大量資金投入を賄うために、これまた巨額の国債が発行される。ここは 本欄にて繰り返し述べてきた米国債バブルが懸念されるところだ。

恐らく、オバマ就任から一年もしないうちに、米国債バブルがはじける。きっかけは、マーケットのセンチメントが今のデフレ懸念から、なんらかの弾みでインフレ懸念にシフトすることであろう。最近のマーケットのセンチメントというやつは、猫の目のようにコロコロ変わるから、本当に曲者である。

あるいはドル安進行で、オイルマネー、チャイナマネーが米国債を見切る可能性を巡っての様々な議論についても本欄では語ってきた。その結果、米国債が売り込まれるとドル長期金利は急騰することになる。

かかる最悪の結果を回避するためには、結局、通貨増発によるインフレを黙認せねばならぬ。あるいは、ドル安を食い止めるための市場介入のシナリオも現実的となる。それはそれでまた別の合併症を伴うわけで、考えれば考えるほどオバマの前途は険しいと言わざるを得ない。

日本も米国も財政健全化の掛け声だけは虚しく響くなかで、徐々に経済がマネタリーインフレに蝕まれてゆく状況になりそうだ。オバマのハネムーンは、せいぜい半年と見る所以である。

このインフレのテーマについては、新著の第一章 その5に詳述してあります。なお、本書の書評などについては、本日(15日)日経朝刊3面の日経出版社広告をご覧ください。

2009年