豊島逸夫の手帖

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マネーは世界を巡る

2009年1月30日

今日のタイトルは、なにやら雑誌の見出しみたいだけど、これ、金を通して世界を見ると実感することなのだ。

米国経済の構造的赤字体質に不安を感じて"ドル離れ"したマネーが、ユーロに一気に流入し、ユーロが対ドルで過去最高値をつけたのが昨年春。ほぼ同じ時期に金もドルの代替通貨として買われ 史上最高値をつけた。

しかし、その後、米国発の金融危機が欧州、新興国に波及するや、当の米国マネーは母国回帰(レパトリ)を開始。(米国から見て)おカネを外に置いておくのは不安だから手元に戻すというわけだ。さらに、EU圏経済の痛み具合が酷いことが発覚し、ドルからユーロにシフトしたマネーもドルへ回帰。さらに、円にも"安全性"を求める資金が流入(ほんとかよ、というのが日本人の感覚だけどね...)し円は独歩高。

金は、レパトリでドルが買われて上がるときには、"ドルの代替通貨"としてのお呼びもかからないから売られる。しかし、金融危機がさらに悪化するや、ドルにもユーロにも円にも不安を感じるマネーが金に流入中。

だから金の世界に視点を置くと、国境を越えたマネーの流れが、経済情勢次第で右往左往している様相が見えてくるのだ。そして、このマネーの動きが、じつに浮気であることも痛感する。

金が上がれば"これからは金の時代"と持ち上げられ、下がれば"失われた金の輝き"と落される。金そのものは変わらなくても、それを取り巻く市場環境の変遷により、金の値段はコロコロ変わる。

金の価値に普遍性あり、というけれど、所詮、金の価値だって、人間の思い込みじゃないですか、と、ある読者が書いていたけど、そのとおりかもしれない。でも、金融危機の中で、ドルやユーロや円よりは"誰の債務でもない"価値ということで金が浮上しているということかな。ドルやユーロや円を買うということは、その通貨を発行している国、あるいは、その通貨建て債券、株式発行体企業の債務を買うということだからね。カントリーリスクとか信用リスク(破たんリスク)が無いということで金が買われているのだと思う。

前からの定期読者諸氏には目新しい話ではないかもしれないが、最近、新規読者が急増しているので、あらためて書いてみました。

新規と言えば、金市場に新規参入中なのが証券業界。株も債券も売れないということで、最近、証券会社主催セミナーから、ひんぱんにお呼びがかかるようになった。明日は、楽天証券が主催する、なんと3000人参加のジャンボセミナー。澤上さんとか御馴染のメンツが終日代わる代わるステージに立つそうだ。そんな席に金の時間帯が出来るのも時代の流れか。ま、せいぜい"弁当幕"(脚注)にならないように気張ってゆきます(笑)。

筆者にとっては、ゴールドセミナーというやつをホームゲームとすれば、東証アローズでやるような証券セミナーでの講演はアウエーのゲーム感覚なのだよね。必ずしも金に興味がある人たちばかりではないから。だから話す方も、じつは聴衆の反応を見るのが楽しみでもあるのだ。客席からステージがよく見えるのと同様に、ステージからは客席がよく見えるものですよ。

(脚注)
弁当幕=歌舞伎の出し物で、舞台そっちのけで観衆は弁当食べるほうに集中する程度の幕のこと。筆者の御贔屓、円生の十八番で"中村仲蔵"という落語噺がある。弁当幕といわれた場面に、斬新な演じ方で臨み、大向こうを唸らせた歌舞伎役者の話である。

2009年