豊島逸夫の手帖

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いよいよ1000ドル接近

2009年2月19日

とにかく御用繁多で更新が途切れた。前回は月曜の朝に"ジャパンGDPマイナス12.7%の衝撃"を書いたが、その後、欧米市場の友人たちに"それでもsafe haven currency=安全通貨として君たちはYENを買うか"という、月曜の本欄に書いたところの質問を次々に投げつけてみた。その答えは、ほぼ全員がNO、買わないとか、買える雰囲気ではないというものであった。足元の外為市場を見れば、案の定、ドル円は93円台にまで戻っている。外為市場ではポジション調整などと説明されているが、筆者の感触は潮目変化の兆しのほうに近い。

さて、金価格が本稿執筆時点(2月19日日本時間朝6時)現在で985ドルまで来た。これからメディアには1000ドルという数字が乱れ飛ぶであろうが、個人投資家にとって大事なことは、その1000ドルが瞬間タッチなのか 持続性のある大台突破なのか、ということである。

その答えを探る意味で非常に意味のある統計が昨晩発表された。今朝の日経朝刊商品面にもすでに報道されているが、WGCロンドンがGFMS社と共同で3か月ごとに発表する金需給四季報である。今回の対象期間は2008年10-12月。そこで2007年10-12月との比較が興味深い。2008年3月につけた1000ドルへの行程に於ける金市場内部環境と、今回2009年の1000ドル間近の金市場内部環境の違いが鮮明に出ているからである。

結論から言うと、前年同期比で見て、投資需要が182%急増している(399トン)。対して、宝飾需要は6%減の538トン。工業用も10%減の98トン。宝飾、工業用の落ち込みを、投資需要の急増が補って余りあるという構図だ。しかも、投資需要の内訳を見るに、すべての金投資商品にわたり購入量が急増なのだ。

まず、金地金退蔵需要。アジア中東などで金地金現物を長期保有するタイプの買いであるが、これが318%↑=126トン。
次に、金貨(カンガルー金貨などの造幣局が発行する地金型金貨と呼ばれる分野)が203%↑=67トン。
金ETFが、18%↑=94トン。18%という増加率が小さく見えるのは、金ETFは既に2007年時点で活発に売れていたためである。
そして、"その他"という項目が前年同期0.3トンから92.6トンに急増。ここには現物を預けるタイプの金口座などの現物の裏付けのある他のタイプの商品が入る。

さらに国別に見ると、一言で言って、宝飾需要は世界同時不況で急減しているのに対し、それ以上に各国で投資需要が急増していることが分かる。

インドは84%↑=147トン、中国は22%↑=103トンと好調だが、投資需要が主として貢献している内容だ。

中東は1%↑=71トン、米国は7%↓=100トンだが、いずれも 宝飾大苦戦ながら投資需要が絶好調という具合だ。

そして、トリが欧州。ここが驚異的とも言える増加を見せている。投資需要だが、前年9トンから113トンへ1170%の増加率。ドイツ、スイス、オーストリア、そしてフランスなど大陸諸国が軒並み増えている。フランスなどは、1980年代から、民間に退蔵されていた大量のナポレオン金貨が放出されてきたのだが、ここにきて新規購入が急増した。"もう、金なんて古い。金の時代は昔の話。そういえば、うちにも古いナポレオン金貨があるから売ってしまおう"と感じていた若いフランス人たちが、"やっぱり、お爺ちゃんの残したナポレオン金貨が最後の価値の拠りどころ"と感じ始めている証拠である。

歴史的に見れば、金を資産として保有する習慣は欧州に根強く残っていた。それが、今回、米国を震源地とするサブプライムの津波が大西洋を渡って欧州を直撃するに至り、欧州諸国のソブリンリスクが高まり、ユーロが大幅安。ユーロ建て金価格は過去最高値を更新。まぁ、すでに何回も書いたことの繰り返しになるが、このようなマクロ経済環境の中で欧州の金保有が復活したわけだ。

以上、詳細に統計の内容を吟味してくると、2008年の1000ドルに至る行程がNY先物主導型であったのに比し、今回は世界各国で個人投資家の金現物購入が飛躍的に増えていることが分かる。勿論、今回もNY先物買い残高も508トンに増えているが、例えば金ETFの残高は1251トンにまで急増している。

ただし、今回の需給四季報の対象期間である2008年10-12月の平均金価格は794ドル。それが今や1000ドル間近。当然、2009年1-3月の金需要は高値圏でペースダウンすることは間違いない(金ETFという"モンスター"だけは別格だが。)

事実、足元のアジア中東市場は、現物需給がジャブジャブなのだ。1000ドルに近づき、加速度的にリサイクルの売り戻しが増加している。故に、すんなりと1000ドル前後の価格水準が固まるとは思えない。まだまだ下値も見ておく必要がある。解約を迫られているヘッジファンドの運用資産処分売りなどは、これから3-5月が本番である。

とはいえ、2008年3月の1000ドル瞬間タッチのような一回ぽっきりの線香花火に終わる可能性は小さいことを、今回の需給統計は示唆していると言えるであろう。下値では世界中の投資家が口を開けて待っている。平均価格水準が上昇してきていることに異論はない。

なお、今週月曜あたりから、ロシアの公的金購入の報道が頻りにマーケットに流れている。この背景については、著書"金を通して世界を読む"204ページに、"筆者の個人的見方であるが公的金増強に関して最も積極的な国がロシアだと認識している"と書いたくだりを再読していただきたい。

なお、タイムリーにも著書4版告知が今朝の日経朝刊3面の日経出版社広告に出ました。テレ東の看板番組"村上龍のカンブリア宮殿"の文庫本には到底及びませんけどね(笑)。

2009年