豊島逸夫の手帖

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判決の日近づく パート2

2009年2月24日

ちょうど一か月前の1月23日付け本欄で"判決の日近づく"と題し、以下のように書いた。

(以下、引用)
まぁ、はっきり言えば、GM、UBS、そしてAIG。この三社に、早晩、判決が下りそうな様相である。これにBofA(バンク オブ アメリカ)の名前も浮上してきた

シティーやRBS(ロイヤル バンク オブ スコットランド)も国有化されそうな雲行き。すでに実質的には国有化に近い株式保有構成になっているけど。まぁ、判決と言っても、執行猶予付きになり、最悪の実刑=破たんは当面回避することになるだろうが、株主には株安、従業員にはリストラという痛みを伴う判決になることは間違いない。
(引用終わり)

その後、裁判は長引いたが、いよいよ、ここにきて、判決の日が近づきつつある印象である。そのような緊張感がマーケットに漲り、NY株安、金高の要因になっている。ということは、プロの目で見れば"噂で買って、ニュースで売れ"のパターンか。判決が出れば、材料出尽くしで反転の可能性あり、と読む。

昨晩は、CNBCがAIG関連報道でbankruptcy (破産)という言葉を使い、その可能性にも言及した。その一語でNY株は引けにかけ下げを加速させている。欧州ではUBSが元々国策銀行ゆえ、国をあげての生命維持装置に支えられ延命しているが、すでに実質国有化といっても過言ではない。その実態については著書152ページ"露呈したUBSの危機"に書いたのだが、米国に於ける同行富裕層部門幹部の資産隠匿幇助容疑の件などは、ここにきて正に"判決の日近し"という様相である。

とくに、金を通して読むと、UBSの危機が欧州の金融システム不安の大きな要因となっていることがよく分かる。スイス、そして周辺のドイツ、オーストリアで個人の金貨購入が急増しているからだ。この金貨販売の地域的集中は決して偶然ではない。チューリッヒの日経にあたるNZZ紙はドイツ語だが、この話題でもちきりである。経営責任のなすりつけ合い騒動はお決まりの事だが、金融立国の小国ゆえ、国を挙げて同行は守らねばならぬ、というスイス流現実的計算で国全体がまとまっている。そして、国の恥を晒すな、という議論も多く見られる。これはこれで、サブプライムウイルス汚染の実態を把握したいECBから見れば、情報開示不足との印象がぬぐえない。それがひいてはEU圏に於ける危機対応の出遅れ感を招きユーロ安に繋がる。

シティーの国有化問題については、すでに各メディアが詳細に報じているが、一言加えれば、自由主義経済を奉じる米国民は、nationalization=国有化という言葉に対して、スイスとは全く反対に強いアレルギー反応を示すのだ。その心理が金融株下落を加速させている。日本には"困ったときの神頼み"という言い回しがあるが、米国流では"困った者には、まず自助努力をさせよ。さもないとモラルハザードが生じる"ということになる。もっとも、デトロイトからの陳情団には"もはや神頼みしかない"という切迫感が漲る。

筆者から見れば"もはや奇跡を信じるしかなかろう"と思われるのだが...。そもそも国有化の定義も曖昧である。経営に口出しできない優先株から、モノ言う株主になれる普通株に切り替えて国が40%も保有すれば、"国有化"ということになるのだろうが。でも、1月23日付けの冒頭に書いたように、あの時点から、すでにシティーは実質国有化状態じゃないの?だから実際にマーケットが国有化完了と看做した瞬間から、NY金融株は反騰しそうな気がしてならない。だいたい、SP金融株が2年で五分の一になっているそうだから。

そういう株の世界のアナリストから金高はバブルと言われても、説得力ないね。最近、筆者にとってアウエーのゲーム、すなわち証券関連セミナーに招かれ講演することが多いので、とくに感じることは、金が上がると困る人たちがいかに多いかということ。楽屋で主催者側の方に"金が上がっちゃいましてねぇ...。"と、ため息混じりに言われたりすると、なるほどそういうことか、と思うのだ。

たとえば、筆者が目先弱気論を語ると、"ゴールドセミナー"の冠がつく"ホームゲーム"では、会場が失望感に包まれる。"貴方からそんな話を聞きたくなかった"という反応である。ところが、同じ弱気論を証券関連セミナー(アウエーのゲーム)で語ると、会場全体に安堵感が広がる。"そうでしょう、そうでしょう、しょせん金なんてバブルなんだから。あんた見かけによらず話が分かるねぇ..."てな反応なのだ。

筆者も今や立派なアラカン(アラウンド還暦)。この年になるとポジショントークなしの本音で語れるから、それに対する反応の差を観察していると、それぞれのギョーカイの事情を考えさせられるのだよ。

2009年